京都大好きトーク!門川市長とゲストの“きょうかん対談”

第二十一回「継承」 一緒に考えよう、未来の京都のまちづくり
身近な「無形文化遺産」(京料理、地蔵盆、花街など)を未来へ
門川大作京都市長×村田吉弘さん (日本料理アカデミー理事長・"京都をつなぐ無形文化遺産"審査会委員)×綿矢りささん (作家)
門川京都市長・村田吉弘さん・綿矢りささん 対談写真
門川京都市長・村田吉弘さん・綿矢りささん 対談写真
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<プロフィール>
村田吉弘(むらた よしひろ)/1951年京都市生まれ。立命館大在学中、フランスで半年間フランス料理を研究。大学卒業後、名古屋の料亭で修業し、76年に「菊乃井 木屋町店」を開店。93年京料理「菊乃井」三代目主人に。日本料理を世界に発信するNPO法人「日本料理アカデミー」の設立に参画し、現在は理事長を務める。日本料理の新たな可能性を追求する一方で、小学生の食育プロジェクトなどにも取り組む。主な著書に「京料理の福袋」「京都料亭の味わい方」「和食の素で万能レシピ」など。
綿矢りさ(わたや りさ)/1984年京都市生まれ。紫野高3年在学中の2001年、小説「インストール」で第38回文藝賞を受賞し作家デビュー。早稲田大在学中の04年に「蹴りたい背中」で第130回芥川賞を最年少で受賞。同作は120万部を超えるベストセラーに。11年に創作の拠点を京都に移し「ひらいて」を発表。12年には「かわいそうだね?」で大江健三郎賞を受賞。近著に初の短編集となる「憤死」。02〜04年には京都市こども読書活動振興市民会議の委員も務めた。13年に京都市芸術新人賞受賞。

京料理が世界の食を変える

村田吉弘さん門川市長 本日は、京都生まれ京都育ちのお二人、日本料理アカデミー理事長の村田吉弘さんと、作家の綿矢りささんをお迎えしました。一昨年まで東京で活動されていた綿矢さんは、地元に戻って改めて京都の魅力を感じられたそうですね。
綿矢さん はい。山に囲まれていることで、まちに落ち着きがあるなと。山があって川が流れていて、そこに趣のある建物が溶け込んでいる。景色の美しさ、建物、文化が、生活しているだけで体の中に自然と入ってくるようでなじみやすい。京都以外に暮らして、そう気付くようになりました。朝、比叡山から下りてくるお坊さんの声で目が覚めたり、自転車で走っているとゴーンゴーンと鐘の音が聞こえたり。地蔵盆みたいに、子どものころから親しんできた身近な行事が意外と他の地域ではないことも、東京に行って初めて知りました。
門川 そうですね。私も海外の方から、こんなふうにお褒めの言葉をいただいたことがあります。「京都の歴史・文化は素晴らしい。しかしそれ以上に素晴らしいのは、人々の暮らしの中に歴史・文化が息づいていることだ」と。人々の暮らしと共にあることが大事なんだと改めて感じましたね。国内外でご活躍の村田さんは、京都についてどのように感じておられますか。
村田さん 京都は何より人が面白い。僕はいつも、日本人を10倍濃縮したら京都人になると言っています。日本人のええところも悪いところも、京都人は濃い目に持っています。だから皆、京都が心のふるさとのように感じられて、ほっとしはるんでしょう。それから日本の料理は、京都から各地に伝播(でんぱ)していったのと、逆に地方の料理が国司と共に来て、それが都の中で洗練されて京料理になったという両方の側面があります。ですから日本中の郷土料理の断片が京料理にある。さらに遠くシルクロードの文化も色濃く残っています。例えば中国から伝わり京料理で夏越(なごし)の薬石に欠かせない豚の角煮がそう。もっとも、もとの味と比べるとあっさり味ですけど。京都人は原形を残しながら自分たちのまちに合うように変えてしまう。それが京都だと思います。
綿矢りささん門川 その京料理が、世界の注目を集めていますよね。
村田 今、世界の料理が変わろうとしています。その発信地は京都です。日本料理のだしは、昆布のグルタミン酸とカツオのイノシン酸の相乗効果で、うま味成分が8倍になる。それでいてカロリーはほぼゼロ。例えば、京料理は懐石なら65品目で千キロカロリーですが、フランス料理のフルコースは23品目で2500キロカロリー。だから、京料理は人類の肥満化を防ぐ(笑)。そういうわけで世界の料理は、京料理に倣って変わろうとしているんです。
門川 確かに、京都を訪れる外国の方に京料理のカロリーや京野菜などを伝えると喜ばれますね。市のアンケート調査によると、欧米人の観光目的の3〜4割は料理ですからね。
村田 来日する外国人の68%は日本料理が魅力と答えているとも聞いたことがあります。先日もポーランドのワルシャワを訪れましたが、270軒も日本料理店があるんですよ。
門川 そのうち、日本人が経営しているのは?
村田 全体の4分の1くらい。メニューに青椒肉絲(チンジャオロース)が載っていたり(笑)。
門川 そんなこともあって、本当の日本料理を正しく伝えようと、村田さんらは日本料理アカデミーを8年前に立ち上げられ、私も教育長当時からご縁をいただきました。「日本料理を世界遺産に」と呼び掛ける一方で、世界の人が京都の料理店で働きながら学べる仕組みづくりにも尽力された。
村田 日本料理を世界に広めるために重要なのは、やはり人づくり。今まで、文化交流ビザで修業に来こられた外国の方には、限られた生活援助金しかお渡しできず、労災も適用されませんでした。しかし、修業中には熱い油をかぶったり、手を切ることもありますし、それでは人を育てられない。そこで京都を「交流特区」にしていただきたいと、門川市長にお願いしました。
門川 市長室で2時間熱弁を聞かせていただきました(笑)。3年かかりましたが、このたび国の英断もあって、外国の方が働きなら日本料理を学ぶことのできる特例措置が全国で京都市内に限り認められ、今年の11月にも意欲ある方の修業が始まります。京都で「ほんまもん」の技と心を学んだ料理人の方々が、いずれ世界中で活躍してくれるでしょうね。

京都の子どもたちは味が分かる!
門川大作京都市長門川 綿矢さんは、京都の料理についてどう感じておられますか。
綿矢 京都でおいしい料理といえば、まず子どものころ家で食べたものを思い出します。水菜や金時ニンジンなど地元の野菜で母が作ってくれた料理がおいしかったですね。東京から戻って自分で買い物をするようになって気付いたのですが、京都ではスーパーで賀茂ナスなどの京野菜が普通に売られていますよね。それに京都の料理は薄味でおいしい。
門川 「だし」の文化ですね。日本料理を世界に発信していく活動とともに大切なのは、子どもたちにしっかりと「だし」の文化を伝えていくこと。そう考えて、京料理のプロに小学校で教えていただく食育カリキュラムなど、村田さんらにもご尽力いただいています。綿矢さんがおっしゃっていた地蔵盆も、放っておいたら次第にさびれてしまう。そういう家庭料理を含めた京都に伝わる食文化、地域で育まれてきた行事などを文化遺産として継承していくことが大切だと考えています。
綿矢 地蔵盆は、京都だけでなく関西には残っているようですが、関東ではほとんど知られていないのにびっくりして。考えてみれば、東京ではお地蔵さんをあまり見たことないな、でも京都には多いなあと気付きました。
村田 子どもたちを地域で育て、ご近所の絆を深めるためにも大事なお祭りですね。しかし最近は子どもが少なくなってきたから、地蔵盆もお年寄りの姿が多い。
門川 続けていればまた盛んになることもあるでしょうが、いったん途絶えたら二度と戻らない。だから守り継がなければなりません。ただ、こういった慣習・行事は既存の国の制度ではなかなか文化財として認定しにくい。決まった保護団体がなく、定義付けが緩やかなのもネックになっています。そこで、新たに京都市独自の「京都をつなぐ無形文化遺産」制度を創設し、人々の日々の暮らしに息づいた京都ならではの文化をきちんと守っていこうと、委員会も立ち上げました。村田さんには委員を務めていただいていますが、今後どのような取り組みが必要だと感じておられますか。
村田 料理に関しては、京都が最後のとりでです。毎年市内の18校で千人以上の子どもたちにアンケートを取っていますが、好きな食べ物の1位はハンバーグ、2位がカレー、3位はスパゲティ。日本の食べ物が一つも出てこないんですよ。しかし、だしの取り方を教えると、でき上がっただしを飲んで「めっちゃうまい、おかわり!」と。京都の子どもは味が分かるんです。これが最後のとりでで、日本の食べ物を子どもたちの間に何とか復活させたいと思っています。
綿矢 村田さんのように、子どもたちに分かりやすく伝えることが大事ですね。私も京都で子どもと触れ合う読書会に参加したことがありますが、楽しんでもらいながら伝えていけると子どもたちにも残りやすいと思います。私も、すぐにではないですけれど、例えば京都の言葉を使った小説が書けたらと。
門川 京言葉を使う、伝えるというのも、大事にしたいことですね。
綿矢 私が使うのは、いわゆる舞妓さんたちが使うはんなりとした言葉とは違いますけれど。生活する言葉としての京都の小説が、いつか書けたらいいなと思っています。
門川 ぜひやっていただきたいですね。
綿矢 言葉といえば、料理の言葉もいろいろあると聞きました。
村田 みんな、もとは京都弁です。旬、名残、走りといった言葉も、京都の市場の中から出てきたものですからね。
門川 京の食文化、地蔵盆などの伝統行事、花街の文化。そういった大切な文化遺産を京都に住む私たち一人一人が再認識してしっかりと未来へつないでいく、同時に世界にも発信していく、それが観光振興にもつながる。そんな取り組みをしていきたいと思います。お二人には今後も料理や小説を通して、京都の魅力を伝えてくださることを念じています。本日はありがとうございました。



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