京都大好きトーク!門川大作市長とゲストの“きょうかん対談”

第二十九回 日本文化の中心と目される京都が、世界の中で果たすべき役割
門川大作京都市長 × ピーター・グリーリさん (ボストン日本協会特別顧問) × 松山大耕さん (退蔵院副住職)
門川大作京都市長・ピーター・グリーリさん・松山大耕さん 対談写真
門川大作京都市長・ピーター・グリーリさん・松山大耕さん 対談写真
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門川大作京都市長・ピーター・グリーリさん・松山大耕さん 対談写真
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京都市国際交流会館(京都市左京区岡崎)

<プロフィール>
ピーター・グリーリ/1942年米国生まれ。47年に来日、59年まで日本で過ごす。早稲田大で学び、ハーバード大で学士号と修士号を取得。ニューヨーク日本協会や米のテレビ局勤務、コロンビア大ドナルド・キーン日本文化センター所長、日米相互理解と交流を目指す民間非営利団体のボストン日本協会理事長などを経て、現職。京都国際観光大使。米ボストン市在住。
松山大耕(まつやま・だいこう)/1978年京都市生まれ。洛星高校から東京大に進学。同大大学院農学生命科学研究科修了後、平林寺(埼玉県新座市)で3年半修行生活を送る。2006年、副住職として妙心寺塔頭の退蔵院に入る。外国人に禅文化を紹介する体験プログラムや、若手芸術家に本堂の襖絵(ふすまえ)を描いてもらうプロジェクトなどにも取り組む。観光庁のビジットジャパン大使、京都観光おもてなし大使。

「外から京都を見る」ことの大切さ
ピーター・グリーリさん門川市長 京都市とボストン市の交流でも大変お世話になっているピーター・グリーリさん。日本、京都とのご縁は、随分前になるそうですね。
グリーリさん はい。父の仕事の関係で、私は5歳の時に日本へ来ました。日本美術を研究する母に連れられ京都にもよく足を運んだのですが、当時の京都の印象は「嫌いなまち」。研究に没頭する母をじっと待っていたお寺が寒くて大変でしたので。しかし大学に入り、日本の歴史や文学、文化を研究し始め、子どものころには目に入らなかった美しい自然、寺社、それに素晴らしいお料理などに気が付きました。京都に息づく文化全体に興味が湧いて、今では大好きです。
門川 以前、グリーリさんが年末年始を京都で過ごされ、寂しそうにこうおっしゃった。「南座も除夜の鐘も、おけら参りも、おせちも良かった。でもクリスマス飾りとイルミネーションが増えて、門松や着物姿が減りましたね」と。胸に突き刺さりましたね。京都に伝わる日本文化を理解され、こよなく愛してくださっているグリーリさんのこの言葉もあって、私は365日着物で過ごしています。日本酒を愛し、小さな門松を飾ってね。さて、京都・妙心寺塔頭の退蔵院で生まれ育った松山さんは、大学はあえて東京を選ばれたとか。
松山さん 京都を出たがらない京都人は多く、実は私もそうでした。ところが退蔵院住職の父に「京都に居たら一生京都だ。京都の大学に行くなら学費も全部自分で払え。東京なら払ってやろう」と言われ、行かざるを得なかったのです。18歳まで京都の寺で育った私は、寺の中が日常。例えばうちの目の前に家康の命で造られた重要文化財の三門があって、野球をするときは、その門にボールが当たればホームラン。東京に出て初めて、こんなことが普通ではなかったと知りました。京都出身と言えば一目置かれ、「外から見る京都」を初めて感じましたね。
門川 外から見てみることは大事ですね。国内外から来る方の多くは、われわれ以上に京都の価値、本質を理解されている。古くからの国際都市の京都には、祇園祭の山鉾にペルシャの織物が使われるなど世界の一級品が集まり、それが京都の伝統と融合し、和の文化を練り上げてきました。京都のものを大事にすること、世界のものと融合させること、この両方の視点が今後ますます必要だなと思います。祇園祭といえばことしの5月、長刀鉾のはやし方一行がボストンを訪問されましたね。

ボストン市民の心に届いた祇園囃子
松山大耕さんグリーリ はい。京都市とボストン市の姉妹都市提携55周年記念行事として、ボストンに来てくれたんです。世界の宝である祇園囃子(ばやし)を間近に触れて、ボストン市民は大いに感動していましたよ。私は京都国際観光大使として、洗練された京の文化を海外に紹介したいと思っていますが、今回の取り組みはその好例。文化について、スピーチや説明だけで解説されてもあまり面白くないでしょう(笑)。でも、音楽や美術、庭など「生きている文化」を直接体験すれば面白く、伝わりやすいと思います。
門川 感性を大切に。また、その文化の背景を知り、じかに触れ合う―まさに洗練された文化交流ですね。ことし1月には松山さんは全日本仏教会を代表し、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)に出席、世界の人々と交流された。

1300年の時を超えた鑑真和上の心
門川大作京都市長松山 ダボス会議は政治・経済のフォーラムですので、最初は宗教家が行って何の意味があるのかと思っていました。でも行って良かった。印象に残ったのはダボス会議の「バイ・ミーティング」でのこと。2、3千人の参加者がそれぞれ会いたい人と一対一で会える仕組みで、私も世界中の皆さんとお会いしました。驚いたことに日本の僧との対話を望む方は全員20〜30代。世界の若い人たちが日本の仏教に大いに期待されているんだなと感じました。そしてもう一つ、「日中間が難しいこの時だからこそ、仏教者としてどう貢献できるか」といろんなところで尋ねられ、一緒に行った東大寺の長老の話された鑑真和上の話が心に残っています。
グリーリ 1300年前の中国の高僧、鑑真ですね。
松山 はい。当時日本に戒律はなく、お坊さんになりたい人はわざわざ中国に赴かねばなりませんでした。僧侶になるのはまさに命懸けです。そこで中国の僧を日本へ招こうという話になったのですが誰も行きたがらず、当時中国で高名だった僧で、しかもかなりご高齢だった鑑真自らが渡日を決断。5回の遭難を経て6回目にたどり着き、おかげで日本に仏教が広まりました。それから1300年経った2010年の上海万博の時、東大寺の鑑真和上座像が出身地・揚州にも里帰りすることに。ちょうど尖閣問題のさなかで、中国各地で大規模なデモが起こるなど大変な時期でしたが、揚州ではまち中が大歓迎。その様子は中国全土に衛星中継されました。1300年経っても鑑真は、日中の交流を取り持ってくださったのです。日中交流の2千年の歴史の中で、領土問題はたかだか50年、100年の話です。短い単位で見れば判断を誤る、もっと深い文化レベルで物事を考えなければと長老はおっしゃった。さまざまな利害が絡み、議論がなかなか進まないダボス会議で、この発言はブレイクスルー(突破口)になりました。私たち仏教者、もしくは文化に携わるものは、こうした違う視点が提供できる、世の中を変えるきっかけになり得るという思いを新たにした出来事でした。
門川 素晴らしいですね。私もことし揚州で開催した世界歴史都市会議の時、鑑真和上ゆかりの寺に参拝し、そのお話も伺い感激しました。先人の方々の祈り、命懸けの実践、それらの歴史と文化交流の重みを実感しました。あらためて、未来へ生かさなければと決意しました。
 世界から日本の文化の中心と目される京都が、世界の中で果たすべき役割とは。

京都人の「目利き」がまちの発展を支える
グリーリ いろいろとありますが、非常に大事なことは歴史都市としての役割だと思います。伝統と現代のものとのバランスを取るのは非常に難しいですが、世界の歴史都市の中でもうまく調和させているのが京都。これからも伝統と現在、未来のものを巧みに融合するモデル都市として、京都は世界の中で一層大事な役割を果たすでしょう。同じ歴史都市であるボストンもね。
門川 ボストンは、京都市が会長都市を務める「世界歴史都市連盟」に米国で唯一加盟するまち。両市とも長い歴史、文化力・市民力を持ち、ボストンは、ニューヨークとワシントンからちょっと距離を置いている。京都も東京、大阪から少し離れています。大都市と適切な距離を取っていて、学問や先端産業が盛んなど共通点も多いですね。
松山 退蔵院には海外の学生がよく座禅体験に来られますが、ボストンの方は「思慮深い」印象があります。おそらくボストンの方は、京都人と同様にプライドと自信がありますよね。そして、京都が伝統と新しいものをうまく調和させているのは、良いものを良いと判断できる「目利き」があるから。昔のものが良かったらそのまま使い続けるし、今のものが良ければ積極的に取り入れる。それぞれの分野においてきちんとした物差しがあり、その物差しを身に付けた人がいるからこそ目利きに優れる、そこが京都の特徴であり、哲学、伝統だと思います。
グリーリ その通り! 京都人が持つ「自信」はまさにそれですね。
門川 その自信は京都の歴史と京都人の生き方と関係していますね。多くの国で宗教の対立、戦争、貧困、自然破壊など解決困難な課題がたくさんある中、京都は自然と共生し、人々の幸せを求め、千年を超えて発展してきました。何度も苦難を乗り越えてきた自信があるから、ぶれない。そして今、近代都市でありながら伝統と革新、自然との調和、宗教の寛容の精神が息づいています。これから京都が世界の中で大きな役割を果たしていくために、こうした京都の価値を市民の皆さんと再認識し発信していくことがますます大事ですね。世界の歴史都市のモデルとして、目利きのまちとして、さらに京都が発展していくようお力添えをお願いします。ありがとうございました。




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