京都大好きトーク!門川大作市長とゲストの“きょうかん対談”

第三十回 市立芸大の移転を契機に、さらに発展する「大学のまち・京都」
門川大作京都市長 × 山極寿一さん (京都大学総長) × 鷲田清一さん (大谷大学教授、京都市立芸術大学 次期学長)
門川大作京都市長・山極 寿一さん・鷲田 清一さん 対談写真
門川大作京都市長・山極 寿一さん・鷲田 清一さん 対談写真
門川大作京都市長・山極 寿一さん・鷲田 清一さん 対談写真
門川大作京都市長・山極 寿一さん・鷲田 清一さん 対談写真
門川大作京都市長・山極 寿一さん・鷲田 清一さん 対談写真
中京区(堀川通御池東入ル北側)の市立芸術大ギャラリー「@KCUA(アクア)」で

<プロフィール>
山極寿一(やまぎわ じゅいち)/1952年東京都生まれ。京都大大学院理学研究科博士後期課程退学。理学博士。京都大霊長類研究所助手、同大学院理学研究科長・理学部長などを経て、2014年10月から現職。人類学、霊長類学が専門で、アフリカ各地でゴリラの生態を研究。野生のニホンザルの調査・研究も行う。著書に「『サル化』する人間社会」「ゴリラとヒトの間」「家族の起源」「人類進化論」「暴力はどこからきたか」、絵本「ゴリラとあそんだよ」など。
鷲田清一(わしだ きよかず)/1949年京都市生まれ。京都大大学院文学研究科博士課程単位取得退学。大阪大総長を経て現在、大谷大教授。2015年4月から京都市立芸術大学長兼理事長に就任予定。同年4月以降も大谷大客員教授として同大学で教壇に立つ。専門は哲学。近年は、医療や教育など社会の問題発生の現場に哲学の思考をつなげる「臨床哲学」を実践。「モードの迷宮」でサントリー学芸賞。「京都の平熱」「哲学の使い方」など著書多数。

飲み屋がまちの“窓口”だった学生時代
山極 寿一さん門川市長 京都市立芸大の移転整備に向けた準備が進む中、本日は京大の山極総長、市立芸大の鷲田次期学長と共に、「大学のまち・京都」の未来について語り合いたいと思います。まずは京都のまちとの関わりから。
山極さん 東京生まれの私は、大学時代から京都へ。あの頃は大学と下宿を往復する毎日で、先輩に連れて行ってもらった飲み屋がいわば街の“窓口”でしたね。そこでいろんな人に出会い、お酒を飲みながら深い話もしました。まちのお祭りもよくお手伝いさせていただきましたよ。
門川 山極総長は「まち全体をキャンパスに」とおっしゃっていますね。大賛成です。かつてはそういう雰囲気であふれていましたね。京都では学生のことを親しみを込めて「学生さん」と言いますが、それは大学とまちが支え合っている証しでもあります。
鷲田さん 私は京都生まれの京都育ちですが、大学に入って何よりうれしかったのはいろんな世代といっぺんに付き合えるようになったこと。五浪して入った同級生、就職にあぶれ研究室の牢名主になっている人―。環境も世代も全く異なるいろんな人にもまれる場は大事ですね。
門川 夏に床几(しょうぎ)を出した昔は、地蔵盆に学生さんが関わることもありました。そんな学生とまちとの関わり合いを復活させようと、市では大学コンソーシアム京都と一緒に「学まちコラボ」という取り組みを行っています。例えば学生さんが商店街や伝統産業界などとの協働イベントを企画して応募、市が補助金で支援するもので、地域社会×(かける)学生さんの化学反応が京都の強みになる。学生さんの学びが深化し、地域も活性化します。

「遊園地型の教育」から「原っぱ型の教育」へ
鷲田 清一さん山極 面白いですね。われわれも、大学の主役である学生が自由に活動し、切磋琢磨(せっさたくま)できる場をつくらなければと考えています。今の学生は携帯電話で仲間と常にリンクしますが自己決定が苦手。インターネットで簡単に知識が得られる時代ですが、おそらく今の学生たちも本当は人を通じて何かを学びたがっています。キャンパスだけが学ぶ場ではなく、まちで人と対話し、自分の頭で考えることが大事ですね。
鷲田 確かに、教育で大事なのは現場の力。科学技術がどんどん進化した一方、環境問題などのリスクも高まる中で、これからは予測不能なことが起きたときにどう社会を存続させるか、知恵と技をいかに工夫して使うかが問われます。これまでの教育では教える側が多くのメニューを用意していました。ジェットコースターかメリーゴーラウンドかと選択するだけのいわば「遊園地型の教育」。けれどこれからは何もない原っぱで自ら遊びのルールをつくり、その空間に意味を与えるよう導く「原っぱ型の教育」がとても大事になってくると思います。
門川 それは創造的な活動、芸術の原点でもあるでしょうね。以前、山極総長が世界に冠たる京都大学ながら芸術学部がない。しかし京都には市立芸大をはじめ芸術系大学が多いから連携を、とおっしゃったことを思い起こしました。
山極 京大が今よく発信しているのはサイエンス、最先端テクノロジーです。科学の大きな強みは目に見え、形になること。芸術はその正反対で見えないものを形にする不思議な創造性がある。この両方の力を付ければ人間の創造力は豊かになります。ぜひ学生同士、交流させていただければと思います。

京都駅付近への市立芸大移転の意義
門川大作京都市長門川 哲学者・鷲田先生が学長にご就任になる市立芸大は、10年以内に京都駅そばの崇仁地域に移転します。京都の大学全体の拠点になり、京大との連携もより深まっていくでしょう。20年前、全国で200万人ほどだった18歳人口は今百二十数万人。しかし京都市内の学生数はこの20年ほどの間に13万人から15万人近くまで増えています。個々の大学の努力に加え、51の大学・短期大学が加盟する大学コンソーシアム京都の単位互換制度などの取り組みも大きな魅力になっています。
鷲田 京都の大学コンソーシアムは、日本で一番うまくいっていると思いますよ。ほとんどの大学まで自転車で行き来できるのもいい。
山極 伝統文化に関する講義もたくさんあるから、留学生も引きつけられるのですね。
門川 ゴリラ研究の第一人者・山極先生には、かねてから市動物園でもお世話になっています。京都は動物の世界、芸術の世界、哲学・宗教の世界、さらに職人や農林業の世界が混然としているのが面白い。あらゆるものが融合し、新しいものが生まれていくのですね。
山極 京都はある意味小さなまちで、まち中にはいろんな意匠・建築物があり、ちょっと歩けばすぐ自然に出会え、季節ごとにいろんな変化がある。人間は自然の変化から多くを学び創造してきましたが、ここでは学者や芸術家、職人と多様な人々が入り交じって暮らし、さらに変化をもたらしてくれる。だから学びの場として魅力的なまちなんですよ。
鷲田 それにこのまちには、この世を“あっち”から捉える視線が充満していますね。科学、芸術、宗教に共通する、われわれの生きる社会や世界を、当たり前で不変だとされるものを外側から見直す視点です。
門川 最近よく読み返すのですが、2001年に鷲田先生が座長として取りまとめてくださり、当時市会でも全会一致で議決された「京都市基本構想」にこう書かれています。「京都は今深刻な危機にある。産業や観光の伸び悩み、工場や大学の市外流出、文化の創造力と発信力の低下、都心の空洞化、風情ある町並みの消失…。しかし京都人が千年を超え大事にしてきた得意技、つまり『めきき』『たくみ』『こころみ』『きわめ』『もてなし』『しまつ』の文化という六つの得意技を生かしたときに道は開ける」と。こうした方針を基に全力投球し、今日の発展があります。芸大移転もその一環です。
山極 まちをどんどん開放し、知と文化の拠点にしていく。世界の観光都市・京都は、昔から外部の知をうまく使ってまちをつくり上げてきました。さらに若者も入りやすいITネットワークで知と文化の交流を進めれば、京都は国際拠点になり得ると思います。
鷲田 京都が観光地であり続けているのは、世界に通じるいろんな知恵と技があるから。その「技」の典型が芸術であり、職人さんの匠(たくみ)の技。その生きた技で再生産される場所を内に閉じてはいけない。市立芸大も例えばピアノの音が聞こえる、作品づくりがガラス越しに見えるといった至近距離で芸術が感じられるものにしたいですね。移転のプロセスも、市民の皆さんに見てもらえたらと思っています。

大学と連携した取り組みが京都の未来を切り開く
門川 最後に「大学のまち・京都」の未来を見据え、今後望まれることは?
山極 大学の職員・学生が例えば自分が書いた本について語るなど、もっとパブリックに発表する場があればと思います。今京大でも、人材育成の要素に挙げているのが「人を感動させる力」。人が何を考えどういうことに感動するかを理解するためには、頭だけでなく体を使った経験が大切です。そして対話できる環境づくり。昔は飲み屋でしたが、今の学生はあまり飲みに行きませんので意識的に設ける必要がある。さまざまな分野の人がいろんなテーマを話し合えば思わぬ展開が起きる。情報発信する仕掛けと一体になれば、「大学のまち・京都」はさらに世界に注目されると思います。
鷲田 1990年代の初めに京都の文化度を測ろうと、市民がどれくらい習い事をしているかを調べました。すると全国1位が京都。特に謡曲、舞といった芸事が多かった。各分野を究めつくしたプロが身近にたくさんいて、そうした方々から直接学ぶ。「やるとしたらここまでやらなあかんのか」と肌で感じるから、市民の成熟度、高い文化度につながるわけです。大学でも究められた学問を学生に見えるようにすれば、最高の教育になるのではないでしょうか。
門川 世界一級の人々がまちに普通にいはるんやから、ありがたいですね。素晴らしい都市特性・人材にあふれている京都。そんなまちの全ての要素を融合し、未来に向けて大きな力を発揮できるのが「大学のまち、学生のまち・京都」の強みだと思います。京都大学、市立芸大、さらに全ての大学の連携と発展を祈念し、京都市も果たすべきことをしっかり務めてまいります。よろしくお願いします。




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