京都大好きトーク!

第三十五回 女性が輝けば社会はもっと輝く! 誰もが持ち味を生かして活躍できるまちへ
村上圭子さん(京都市産業観光局長) ×稲岡亜里子さん(本家尾張屋16代目当主、写真家) ×鈴鹿可奈子さん(聖護院八ッ橋総本店専務取締役)
村上圭子さん・稲岡亜里子さん・鈴鹿可奈子さん 対談写真
村上圭子さん・稲岡亜里子さん・鈴鹿可奈子さん 対談写真
村上圭子さん・稲岡亜里子さん・鈴鹿可奈子さん 対談写真
村上圭子さん・稲岡亜里子さん・鈴鹿可奈子さん 対談写真
村上圭子さん・稲岡亜里子さん・鈴鹿可奈子さん 対談写真
京都市男女共同参画センター「ウィングス京都」(中京区)での座談会に参加した皆さん

<プロフィール>
稲岡亜里子(いなおか ありこ)/京都市出身。ノートルダム女学院高2年の時に渡米。カリフォルニアの高校を卒業後、ニューヨークの美術大学、パーソンズスクールオブデザインで写真科BFA修得。雑誌やCDジャケットなどの写真を手掛け、10年間のニューヨーク生活の後、拠点を東京に移す。2008年にアイスランドの自然をテーマにした写真集「SOL」を出版するなど、国際的に活躍。現在も写真展を開催するなど写真家としても活動を続ける。10年に本家尾張屋の取締役、14年に代表取締役に就任。
鈴鹿可奈子(すずか かなこ)/京都市出身。京都大経済学部卒。在学中に米国カリフォルニア大サンディエゴ校エクステンションでPre-MBA取得。信用調査会社勤務を経て、2006年聖護院八ッ橋総本店入社。長い歴史と伝統の味を守り受け継ぎながら、新しい商品づくりに努めている。11年には新しい形で八ッ橋を提供する新ブランド「nikiniki」を立ち上げた。19年に開催される「世界博物館大会」の招致活動に参加。「DO YOU KYOTO?ネットワーク」呼びかけ人。
村上圭子(むらかみ けいこ)/北九州市出身。神戸大経営学部卒。83年に京都市に入庁し、産業観光局商工部商業振興課長、下京区副区長などを経て、2011年から産業観光局観光政策監。14年から現職。

働くことへの思い
稲岡亜里子さん村上さん 本日は本家尾張屋の稲岡亜里子さん、聖護院八ッ橋総本店の鈴鹿可奈子さんにお越しいただきました。家業を担う決意をされたのはいつごろですか?
鈴鹿さん 中学生くらいの時ですね。小さいころから会社のみんなに遊んでもらい、八ッ橋も大好きだったんです。好きなお菓子に携われる仕事は他になかなかないなと。
村上 稲岡さんは長く写真家として活躍されていたのですよね。
稲岡さん はい。私も店をまるで家のようにして育ったんですが、弟がいたこともあり、自分の仕事は京都を出てもっと大きな世界で見つけたいと思っていました。15歳の時「留学したい」と父に頼み始め、高校2年でアメリカへ。そこで写真に出会い、20代は写真に夢中でした。30歳で日本に戻りましたが、その時も継ぐことは考えていなくて。きっかけは、やはり写真。アイスランドの自然を撮った写真集ができた時、写っている水、石、コケ、蒸気などを見て「あ、私って京都を撮っていたんだな」と気付いたんです。そこで初めて、京都に住みたいと感じました。生まれ育った家のことを考えるうちに継ごうという気持ちになり、父に伝えたらびっくりしていました。
村上 うれしい驚きだったでしょうね。鈴鹿さんも留学経験がありますね。
鈴鹿 今後経営に携わるならと思い、大学では経済学部を選び、アメリカでは経営を勉強しました。外の世界を見たい気持ちは私も強かったんです。卒業後は一度他の会社に勤めていましたが、実家の仕事を手伝ってほしいと言われていたこともあり入社しました。
村上 私は学生時代、仕事を持つ人生の歩みは確かだ、私もずっと職業を持ち続けたいと思ったのですが当時、大卒女子の採用は民間ではあまりなかったんです。1社受けた面接では「結婚しても、子どもを産んでも仕事を続けたい」と言うとその場が静かに。それで比較的門戸が開かれていた公務員になりました。最初に配属された河川課をはじめ、驚くほど人の暮らしや命に関わるような大事な仕事があると知り、ずっと続けても飽きないと思いました。私の入庁当時、女性は机の上でできる業務がほとんどでしたが、30年たてば隔世の感で、今はどんな仕事もやっています。お二人も伝統に新風を吹かせる活躍をしておられますね。

京都の強み「不易流行」

鈴鹿可奈子さん稲岡 尾張屋はそばが有名ですが、もともとはお菓子がルーツで、この二つがあるから550年続いてきたと思います。そばは祖父と父が盛り上げてくれた。ならば、次の私はお菓子を盛り上げる代と思い、まず考案したのがピーナツを入れた新しい味の「蕎麦(そば)板」です。私自身は専門技術がないですが、来年3月までの期間限定カフェでは、コラボレーションを依頼したシェフ(船越雅代さん)に「そば粉やそばの実、蕎麦板、そば餅、蕎麦ぼうるなどの定番商品を使って何か変身させて」とお願いしました。実験的な試みがたくさんできて、とても面白い場所になっています。私も店頭に立っています。
村上 そうなんですか!
稲岡 はい。毎日ではないですが。準備やお客さまとの会話を通じてサービスの大切さや大変さ、社員が陰でやってくれていることがよく分かりました。
村上 トップが現場に立つ、大胆な取り組みですね。それを自然体で。
稲岡 楽しいですね。発見は多いし、もともと私は写真家という仕事柄、現場で物を作ったり、人と出会ったりするのが好きなんです。
村上 鈴鹿さんも、カラフルな八ッ橋が愛らしい「nikiniki」(ニキニキ)をはじめ新たな取り組みを。
鈴鹿 私もお菓子作りは全くできないのですが、作らない者の目からできることはないかと手探りでした。入社してまず考えたのが包装紙です。ずっと同じだったあん入り生八ッ橋の包装紙を季節ごとに変えてみることにしました。社内では「包装紙が違うのに中身が一緒だと、お客さまを裏切ることにならないか」と反対意見もあったのですが、お客さまからは、中身が同じだからこそ安心できるという声をいただき、味が大切だということを再認識しました。そうするうちにお菓子自体の可能性ももっと広げたいと思うようになり、八ッ橋のおいしさを広く知ってもらおうと「nikiniki」を立ち上げました。稲岡さんのお菓子がそば粉を使って作られているのと同じように、八ッ橋にも米粉とニッキと砂糖を必ず使うという定義があります。「nikiniki」にも、聖護院八ッ橋総本店の八ッ橋、生八ッ橋と同じ物を使っていこうと決めています。「nikiniki」の誕生で、会社の中も変わってきました。それまではずっと続くお菓子を一筋に作っていたのが、今は若い社員のアイデアが形になってお客さまの手に届く、そういう楽しさが浸透してきたようです。
村上 お話を聞いて、やはり京都だなと思いました。京都では皆さん、「不易流行」が大事だとおっしゃる。ベースはきちんとあり、その他は時代に合わせどんどん工夫していく。そうして会社を長くつないでこられた方がたくさんいる。それが京都というまちの力かなと思います。

発想の転換がプラスのエネルギーを生む
村上圭子さん村上 一般に経営者は会社を大きく、売り上げを何倍にと目指すけれど、京都の場合は長く続けることを目標に掲げられる方が多いですね。そこでは働く人の意欲も高い。そうした会社の代表格というべき老舗で、お二人のような女性が活躍しておられるのは心強いです。今“女性の力”に大きな期待が寄せられていますが、女性がいっそう輝く社会となるために大事なこととは?
鈴鹿 制度ももちろん大事ですが、一番大きいのは意識だと思います。村上局長が昔面接を受けられた時のような空気は、働きづらさにつながりますよね。ただ男性や企業側の意識の問題があると同時に、女性自身も「自分は女性だから」と思えば壁にぶつかってしまう。それぞれお互いに、そういう意識を外していくのが大事だなと思っています。私自身、経営側として少し厳しいことを言うと「女性なのにきつい」と思われることも。外では男性の中に女性1人ということも多いのですが、一度会っただけで覚えていただけるという面もあります。そういうありがたいことに目を向けるようにして、ポジティブに考えるようにしています。
村上 今年出産され、経営者、写真家、母親と三つの顔を持つ稲岡さんは?
稲岡 女性だというのは、あまり意識したことがないんです。写真家は、撮影現場でもみんなの声を聞き最終決断を要される立場だったので、女・男は関係なく、人と人としてのチームで仕事をしてきたように思います。なので、今の仕事でも、女性としての仕事のしにくさは感じません。今は母親になり、店を見て、写真を撮って―。とにかく忙しいんですが、その三つがあるからこそ、うまく回っている気がしています。写真だけの時の方が悩む時間も多かったんですが今は時間がないから、とりあえず動く。それと、人に助けてもらう力が大きくなりました。子育ても仕事も、家族、従業員、本当にいろんな人に助けてもらっています。人に接すると元気をもらうので、忙しいけど楽しいですね。
村上 私も2人の子どもを育てましたが、子育て中は忙しかった。でも優先順位をつけ短時間でやろうとするので、逆に効率が良い。家事や育児の中から、仕事のヒントも見つかります。「急に子どもが熱を出したからお願いね」などと人に頼む場面も増えます。頼んで、後からお礼を言うといったことの積み重ねが、チームで仕事する上でプラスになりました。近所のお母さんたちなどと、仕事とは違う付き合いも広がりました。京都市では仕事もプライベートも地域活動も丸ごと楽しむ「真のワーク・ライフ・バランス」を推奨していますが、いろんな方との出会いで人生は本当に豊かになる。
鈴鹿 未経験の私は、果たして仕事と子育ての両立は可能なのだろうかという不安があるんです。でも明るく前向きなお二人の話を伺って、とても楽しい気持ちになれました。
稲岡 何とかなるんですよ。難しいようで、反対にそれがプラスのエネルギーに。子どもは命そのもので、その成長を見ていると毎日が発見で、エネルギーもすごくもらえる。お店でもみんなに抱っこしてもらうのですが、子どもが店を一つにしてくれているところもあります。
村上 幸せと活力が、周囲にもきちんと伝わっていくんですよね。本日は勇気づけられるお話をありがとうございました。




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