京都大好きトーク!

第三十五回 女性が輝けば社会はもっと輝く! 誰もが持ち味を生かして活躍できるまちへ
門川大作京都市長 × 佐々木丞平さん(京都国立博物館長) × 杉本節子さん(奈良屋記念杉本家保存会常務理事、料理研究家)
門川大作京都市長さん・佐々木丞平さん・杉本 節子さん 対談写真
門川大作京都市長さん・佐々木丞平さん・杉本 節子さん 対談写真
門川大作京都市長さん・佐々木丞平さん・杉本 節子さん 対談写真
門川大作京都市長さん・佐々木丞平さん・杉本 節子さん 対談写真
門川大作京都市長さん・佐々木丞平さん・杉本 節子さん 対談写真
重要文化財の杉本家住宅(下京区)での座談会に出席した皆さん


<プロフィール>
佐々木丞平(ささき じょうへい)/1941年兵庫県生まれ。京都大大学院文学研究科修了。京都府教育委員会文化財保護部技官、文化庁文化財調査官、京都大大学院文学研究科教授などを経て2005年から現職。国立文化財機構理事長も務める。専門は日本近世絵画史で、文人画、円山四条派などを研究。国華賞、日本学士院賞を受賞。著書に「円山応挙研究」「文人画の鑑賞基礎知識」「古画総覧」 「蕪村」「浦上玉堂」ほか。
杉本節子(すぎもと せつこ)/1965年京都市生まれ。京都文教短期大卒。自家が京都市と国指定の文化財で、京町家の歴史や文化の継承に力を注ぐほか、雑誌や料理講習会で年中行事にまつわる伝統食や京のおばんざいを紹介するなど幅広く活躍している。著書に「京のおばんざい12か月」 「京町家の四季」ほか。「京の食文化ミュージアムあじわい館」の開館記念事業 「京のおばんざい文化展」を監修。

市民生活に根付いた文化
佐々木丞平さん門川市長 文化庁の京都移転が決まり、これから新しい文化行政が始まる大きな転換期。本日は京都の文化を象徴するお二人をお迎えしました。まずは佐々木丞平さん。近世日本美術がご専門で、現在は京博で貴重な文化財を守り伝える取り組みなどに尽力しておられます。
佐々木さん 私は大学時代からこれまでずっと18世紀の京都画壇を研究してきました。文化庁を経て大学で教壇に立った後、現在の博物館に。ここでの2本柱は、文化の「保存」と「発信」です。
門川 幅広い文化活動にもご尽力ですね。そしてもうお一方は杉本節子さん。この京町家・杉本家住宅を守りながら、日本の伝統的な食文化をはじめ「生活に根付いた文化」を伝えておられます。
杉本さん 私はこの家に生まれ、意識しないまま京都の文化にどっぷり浸り育ってきました。約25年前、バブル経済が崩壊し、まちじゅうの伝統的な家屋がどんどん建て替わる状況をマスコミが取り上げ、初めて「京町家」という言い方が一般的に。そのころに財団を設立しました。1994年に京都市の有形文化財、2011年に建物が国の重要文化財に指定され、庭も国の名勝となっています。
門川 杉本家住宅は、「生活の場」としては初めて京都市が文化財に指定。その後20年近くたって国も認めた。ようやく生活の中の文化に目が向けられたわけです。さらに京都市では、“京都をつなぐ無形文化遺産”の第1号として「京の食文化」を選定。杉本さんにもご協力いただきました。
杉本 「食文化」が京都の文化の代表として選ばれ、とってもうれしかったです。
門川 杉本家には、代々の当主が暦に沿って献立や日々の暮らし方を記した文書が伝わっていますね。
杉本 「歳中覚(さいちゅうおぼえ)」ですね。その大本は、寛政2(1790)年に書き始められました。その後何度か改められ、今手元にあるのは天保12(1841)年のもの。京の商人が徳川幕府のお触れに従い、いかに身分相応の暮らしをしてきたかがよく分かります。
門川 お寺や神社の史料はよく残っていますが、庶民の記録がこれほど詳細に残っているとは奇跡的ですね。
杉本 京都の「おばんざい」は皮や根っこまで使い切る。その質素倹約の気持ちは、無駄を出さない工夫を凝らした商人の暮らしをベースに生まれ、受け継がれてきたものなんです。
佐々木 食材とその背景、生活との関わり…文化とは、そういうさまざまな要素が縦糸、横糸となって織り合わされた、まさに織物だと思います。文化に関わる要素は無限ですが、それをいかに織りなすか、文化の質はそこにかかっている。
門川 近世の京都画壇や町家の生活文化などさまざまな要素が、縦横になって今の京都を形作っているとも言えますね。
佐々木 江戸期、特に18世紀の京都画壇では、伊藤若冲(じゃくちゅう)や与謝蕪村、円山応挙といったそうそうたるメンバーが登場しました。また、さまざまな学問や科学の卵がふ化した時代でもあります。社会の活気を背景にして、素晴らしい町家文化も織り上げられたんですね。
杉本 平和な時代にこそ多様な文化が生まれる。納得です。

日本文化の中心・京都

杉本 節子さん門川 京都は世界でも珍しい、城壁のない歴史都市。千年前から世界に開かれた都市であり続けた。そこには、都市のベースは文化であり市民であるという考え方が根っこにある。それを象徴するのが、1978年の「世界文化自由都市宣言」。「世界文化自由都市とは、世界の人々が人種、宗教、社会体制の違いを超えて自由に集い、文化交流を行う都市。京都は広く世界と交わって優れた文化を創造し、永久に新しい文化都市でなければならない」。そんな格調高い内容です。そして「われわれ市民は、静かに決意してこれを誓う」と結ばれます。感動的ですが、認知度が低く静かすぎたかも(笑)。
杉本 直接的、かつ婉曲(えんきょく)的で京都人らしさが表れていると思います。
門川 1987年には、国に「文化庁を京都に!」との趣旨の要望を始め、2001年からは「京都創生」の取り組みがスタート。日本の、世界の宝である京都を創生するために、市民ぐるみでできる限りの努力をしようと。その中で「文化を大切に!」、また、建物の高さやデザイン規制によってまちを美しくする景観政策や「歩いて楽しいまちづくり」など総合的な施策を進めてきました。こうした文化を高める長年の取り組みが京都の都市格を向上させ、文化庁移転にも結び付いたと言えますね。
佐々木 やはり京都ではあらゆる取り組みが文化と密接に関わっている。
杉本 素晴らしいことですね。文化庁の方には、京都で文化を守り伝える人たちが、どれほど熱い思いで日々努力しているかも見ていただきたいと思います。

文化と政治・経済を融合
門川大作京都市長門川 その文化を支えてきた伝統産業が、今危機的な状況を迎えています。
佐々木 職人さんの高齢化もどんどん進んでいますね。後継者も少ない。
門川 ええ。そこで文化庁に三つの提案をしました。まず全国の伝統・地場産業を元気付けること。京都だけでなく、北海道から沖縄まで日本全体を。
杉本 とても大事な仕事だと思います。
門川 次に、文化行政の機能強化。例えば町家の保存は、まち全体のたたずまいも関わりますから国土交通省と共に。そういうことを文化庁を中心にあらゆる省庁がきちっと連携する。三つ目に、二条城もこの杉本家住宅も美術館・博物館なども文化庁のサテライトにして、世界の人々が集い文化を創造する拠点を京都のまちじゅうにつくることを提案。馳文部科学大臣は、「300人の文化庁職員は京都のまちなかに住み、町内会や地域のお祭りにも参加、京都に伝わる日本の文化を肌で感じながら文化行政を担うのがよい」ともご発言。うれしい限りです。
佐々木 あらゆる省庁が連携し、力を合わせて「文化」を織り上げていく。そうなったとき初めて、「文化庁が京都に移って、日本の文化力全体が上がってきたな」となるわけです。それにはまず、京都市民がその気になって応援しないと。訪れる人が「うわあ、京都ってきれいだな」「おもてなしの精神に満ちているな」と感じるようになったとき、京都はようやく「世界文化自由都市」として世界のモデルになると思います。
杉本 市民一人一人が身近なことから始めたいですね。
佐々木 博物館でも、伝統文化を肌で感じる入り口にしようと挑んでいるところです。尾形光琳の虎がモチーフのキャラクター「トラりん」もその試みの一つ。美術・文化に関心のある学生を教育し、「文化財ソムリエ」として小学校に派遣したりも。
門川 まさに出前博物館ですね!まち全体が博物館に。
杉本 ソムリエの方に京町家の文化も発信していただけたら。文化庁移転は「文化首都・京都」をかなえるための第一歩。明治維新から約150年、京都人は「天皇さんが、いはれへんようになってしまった」という喪失感を拭えずにきました。それが文化庁移転で、もう一度「揺るぎない都市格」が得られる。「双京構想」が進み、将来皇室の方により京都に関わり合いを持っていただける。大いに期待を寄せています。
門川 文化の力で都市格、国の品格を上げることはとても大事です。問題は今、文化が経済とうまく結び付いていないこと。しかしフランスもイタリアも、文化を生かして経済を活性化させてきました。日本でも、文化の根底にある伝統産業などが元気になる仕組みをつくらねばなりません。
佐々木 そうですね。文化、政治、経済はそれぞれ別のものと捉えがちですが、政治にも経済にも、文化がぐっと入り込まなければならないと思います。
門川 この間インドやフランスの首相、ウクライナの大統領が来日された際、まず京都に来られたんです。東京ならいきなり政治経済の話に入るけれど、京都では文化や歴史から話題が広がり雰囲気が違うと。文化の力を改めて実感しました。今後、外国の要人が京都にお越しの際には、迎賓館で文化庁長官と一緒にお迎えしたいですね。
杉本 私も大賛成です!そうすることで、日本が、京都が文化を大切にしているということを、世界中の人にアピールできますね。
佐々木 その際には、ぜひ皆さんで博物館にもお越しいただきたい(笑)。
門川 文化庁の移転を機に、京都は市民ぐるみで、ますます大きな役割を果たさねばなりません。日本の文化を担われるお二人のいっそうのご支援をお願いいたします。




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