京都大好きトーク!

第四十回 「東アジア文化都市2017」が開幕! 京都から、文化の力で世界に貢献!
門川大作京都市長 × 近藤誠一さん(元文化庁長官) × 茂山千五郎さん(大蔵流狂言師)
門川大作京都市長さん・近藤誠一さん・茂山千五郎さん 対談写真
門川大作京都市長さん・近藤誠一さん・茂山千五郎さん 対談写真
門川大作京都市長さん・近藤誠一さん・茂山千五郎さん 対談写真
門川大作京都市長さん・近藤誠一さん・茂山千五郎さん 対談写真
門川大作京都市長さん・近藤誠一さん・茂山千五郎さん 対談写真
京都芸術センター(京都市中京区)での座談会に出席した皆さん


<プロフィール>
近藤誠一(こんどう せいいち)/1946年神奈川県生まれ。東京大教養学部卒。72年外務省入省。2006〜08年ユネスコ日本政府代表部特命全権大使。08〜10年駐デンマーク特命全権大使。10〜13年文化庁長官。現在、東京芸術大客員教授、京都市芸術文化協会理事長、東京都交響楽団理事長、日本舞踊協会会長などを務める。東アジア文化都市2017京都実行委員会委員長。
茂山千五郎(しげやま せんごろう)/1972年京都市で十三世茂山千五郎の長男として生まれる。父と祖父四世千作、曽祖父三世千作に師事し、4歳で初舞台。茂山正邦として、大阪市咲くやこの花賞、文化庁芸術祭新人賞、京都府文化賞奨励賞受賞。2016年9月、茂山千五郎家の当主として十四世千五郎を襲名。本年3月19日および10月13日、東アジア文化都市2017京都の公演に出演。

東アジアが文化で交流
近藤誠一さん門川市長 京都市、中国・長沙(ちょうさ)市、韓国・大邱(てぐ)広域市の3都市で一年にわたって文化芸術交流を行う「東アジア文化都市」が開幕しました。本日のゲストは、実行委員長で元文化庁長官の近藤誠一さん、公演に出演いただく大蔵流狂言師の茂山千五郎さんです。近藤さんは、文化庁長官として本事業を創設され、ご尽力。
近藤さん はい。EU(欧州連合)が文化で交流を深めるため、「欧州文化首都」を一つ選び、その文化を盛り上げる取り組みがあります。これをヒントに、日中韓でも同じような事業をと提案し、2014年から始まりました。最初に横浜、次に新潟、奈良と続き、京都は4番バッター。当初から目的は一貫して都市同士の文化交流です。「政治も経済も抜きで、文化で!」と。開始直後に尖閣諸島の問題などが起きましたが、中国や韓国からもやめようという話は一切出ず、都市と文化の力を実感。京都でも先月、盛大にスタートしました。
門川 「4番バッター」京都としては、満塁ホームランを狙うのではなく(笑)、きちんと次につないでいきたいですね。さらに新たに、ASEAN(東南アジア諸国連合)文化都市を含む19都市の首長が集う「東アジア文化都市サミット」を京都市が主催します。これらの事業をきっかけに学生や若い芸術家を中心としたネットワークが結ばれ、それを未来へと継承するレガシー(遺産)として、東アジアの文化交流と平和に貢献したいですね。
茂山さん 私は早速、日中韓伝統芸能公演(京都芸術センター)で中国の「変面」と共演し、10月の二条城での能楽公演にも出させてもらいます。能・狂言も大陸から文化が伝わって、それが独自に発展してきたものですから、中国・韓国の文化とは共通点が多い。私も共演を通じて、舞台を作り上げる感覚をはじめ、通じるものを感じています。これまでご一緒した京劇でも、能舞台と同じように舞台の背景をあまり作り込まず、歩くときは能・狂言と同じように腰を入れる。舞台の上を流れるような動きに「似ているなあ」と感じていたんです。日中韓の芸能を併せて見ると、共通点やそれぞれの魅力を再認識いただけると思います。
門川 身体表現にも国の文化が見事に表れるのですね。今から本当に楽しみです。

茂山千五郎家の「お豆腐狂言」
茂山千五郎さん門川 茂山さんは昨秋、十四世千五郎を襲名されました。茂山千五郎家では、歌舞伎をはじめ他のジャンルとの共演や、狂言会のインターネット配信など新しい取り組みも盛んですね。
茂山 うちの一番の良さは、いろんな人間がいろんなところを向いて活動しているところ。ただそれだけに扇の要がしっかりしなければと思っております。また狂言には約200曲あるのですが、ずっと上演されていない演目も多いんですよ。古くから伝わっている曲を学び、後世に継承できたらと取り組んでいます。
門川 「お豆腐狂言」を掲げ実に幅広く活躍される千五郎家のご当主・千五郎さんが扇の要として、歴史を訪ねた上で新たな試みにも挑戦。素晴らしいですね。
茂山 家訓の「お豆腐狂言」は、元々悪口が始まりでして(笑)。江戸時代、能楽は武家のたしなみ事の一つで格式付けられており、狂言も「能舞台以外で上演はならぬ」とされていました。しかし4代前の正重(十世千五郎)が、「もっといろんな人に見ていただきたい」と余興の席に伺うようになった。それに対して仲間内からは「お豆腐みたいやな。余興に困ったら、茂山の狂言呼んだらええ」と。正重はこれを逆手に取り、「豆腐で結構。豆腐はどんな料理にも合うし、少しのアレンジでおかずにも主食にもなる。豆腐のように皆に楽しんでもらう狂言を目指せ」となったんです。
門川 その「お豆腐主義」で、ついには日本を飛び出てチェコ・プラハまで行ってくださった(笑)。1996年、京都市との姉妹都市提携時の上演をきっかけに、現地で狂言会が立ち上がり、昨年の提携20周年記念公演ではチェコ語と日本語で上演。会場は大きな笑いの渦に包まれました。
茂山 今も2〜3年に一度、叔父の七五三やいとこの宗彦たちが教えに行っています。元々狂言は神社仏閣の境内などで行った野外劇。ですから現代でも大道具やマイクは使わず、体の動かし方もダイナミック。だから外国の方にも伝わりやすいのでしょう。
門川 5年前、京都にドイツのアーティストの滞在拠点「ゲーテ・インスティトゥート・ヴィラ鴨川」がオープンした時の大統領の言葉を思い出します。「近代化を実現した世界のほとんどの国は個性をなくした。しかし個性が見事に残る日本の京都で、ドイツの芸術家が能・狂言など豊かな伝統文化に学べば、新たな文化が創造できる」と。チェコの人々の笑顔を見て、そのことを確信しました。

文化庁と共に京都が果たす役割
門川大作京都市長門川 さて、外交官として約20年間海外生活を送られた近藤さん。現在は京都市芸術文化協会の理事長として、京都の文化芸術の振興・発信にもご尽力いただいていますが、京都にはどんな思いが?
近藤 京都では人々の暮らしの根底にある、文化・歴史への深い思いを感じます。政治と経済、文化における千年の都、海外交流の中心でもあった京都。路地のたたずまいも他のまちとは何か違う。きらびやかさはないけれども、にじみ出てくる艶、誇り。外務省で文化交流担当になった時、「日本の文化を改めて勉強しなくては」と京都を訪れたんです。そこで感じたのは、やはり生活に文化が根付いているということ。今どきの若いカップルが黒谷さん(金戒光明寺)の門前で急に立ち止まり、深々とお辞儀した姿が非常に印象に残っています。感性に直接訴え行動させる力、そういうものにあふれているのが京都の素晴らしさだと思います。
門川 「日本を学ぼう」と京都に。光栄ですね。そんな京都に昨年新たにオープンした日本初の漢字ミュージアムには、808字の日中韓共通の常用漢字が展示されています。5年前に世界歴史都市会議が開かれたベトナムも、元は漢字文化圏。漢字を学ぶことで、日本はもちろんアジアを知ることにもつながる。
近藤 それは古典に学ぶことにも通じますね。源氏物語を全部読むのは大変ですが、そこで手間をかけることにこそ学びがある。昨今はインターネットの検索ですぐ分かった気になりがちですが、一生懸命辞書を引きながら考える、その過程が何より大事です。そこで日本人のアイデンティティーやルーツに気付くかもしれない。ともすると効率性やスピードに走りがちな時代に大切なことだと思います。
門川 そして、埋もれた狂言の古典に再び光を当てようとしておられる茂山さん。
茂山 あまり上演されない演目のせりふには今と少し違うニュアンスが残っていることもあります。「昔はこういうしゃべり方をしたんだ」という意外な発見が楽しいですね。
門川 今、世界情勢は険しさを増していますが、文化は民族も国境も、政治も超える。40年前に「世界文化自由都市宣言」を行った京都に文化庁が移転することが決定、この4月には一部先行移転として、地域文化創生本部が立ち上がります。
近藤 文化庁の職員約300人が京都の暮らしの中に身を置くことが、何といっても大きい。日本の文化政策を質的に向上させるこの上ないチャンスです。この先予算も人もなかなか増やせませんから、一人一人のクオリティーを高めることが必須。そういう意味で、京都移転には最初から賛成していました。
茂山 能楽の人間は皆個人経営で発信のノウハウがあまりないので、文化庁が来ることでその面をサポートしていただけるのではと大いに期待しています。また、豊かな文化を持つ京都の価値に京都の人自身が気付くきっかけになり、まち全体にも良い刺激となりそうですね。
門川 人、物、資金、情報の東京一極集中は、日本の未来にとって大変な問題です。そのための地方創生。その一環としての文化庁移転です。政治・経済は東京、文化は京都から発信し、多くの方に日本をより深く理解してもらえるようにしなければ。「働き方改革」が叫ばれる今、人間らしく生き生きと働き、さらに生活の中で、また地域社会で文化を豊かに楽しむ、そういう社会への転換を京都から推し進めていきます。2020年の東京オリンピック・パラリンピック、その翌年のアジア初開催の関西ワールドマスターズゲームズという、世界的なスポーツ・文化行事も見据えて。京都から世界へと発信される茂山さん、また世界を視野に京都で行動される近藤さん。お二方に異なる方向から役割を果たしていただけるのも京都ならでは。この力を大事にしつつ、市民の皆さんの高い文化力をさらにアップしていきたいですね。本日はありがとうございました。




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