京都大好きトーク!

第四十二回 漫画・アニメをはじめ、日本が世界に誇る文化を京都から発信!
門川大作京都市長 × 荒俣宏さん(京都国際マンガミュージアム館長) × 唐仁原希さん(画家)
門川大作京都市長さん・荒俣宏さん・唐仁原希さん 対談写真
門川大作京都市長さん・荒俣宏さん・唐仁原希さん 対談写真
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門川大作京都市長さん・荒俣宏さん・唐仁原希さん 対談写真
門川大作京都市長さん・荒俣宏さん・唐仁原希さん 対談写真
京都国際マンガミュージアム(京都市中京区)での座談会に出席した皆さん


<プロフィール>
荒俣宏(あらまた ひろし)/1947年東京都生まれ。慶応大卒業後、10年間のサラリーマン生活を経て独立。百科事典の編集助手をしながら書いた小説「帝都物語」がベストセラーになり、日本SF大賞受賞。「世界大博物図鑑」でサントリー学芸賞受賞。神秘学、博物学、風水など多分野にわたり精力的に執筆を続け、著書・訳書は350冊余り。希書コレクターとしても有名。近著に「アラマタ大事典」(講談社)、「サイエンス異人伝」(同)、「日本まんが」(1〜3巻)(東海大学出版部)など。本年4月、京都国際マンガミュージアム館長に就任。
唐仁原希(とうじんばら のぞみ)/1984年滋賀県生まれ。2011年京都市立芸大大学院美術研究科絵画専攻油画修了。現在、同博士(後期)課程油画領域在籍。12年「京展」市長賞・京都市美術館賞、14年滋賀県次世代文化奨励賞、15年京都市芸術新人賞、「琳派400年記念新鋭選抜展」産経新聞社賞、16年「FACE2016」優秀賞受賞。「VOCA展2013―新しい平面の作家達―」、「美少女の美術史」、「お家に帰りたい/MATSUO MEGUMI+VOICE GALLERY pfs/w」などに出展。京都を拠点に個展やグループ展を開催。

漫画を取り巻く環境が劇的に変化
荒俣宏さん門川市長 本日のゲストは、京都国際マンガミュージアムの新館長・荒俣宏さんと新進気鋭の画家・唐仁原希さん。漫画をはじめ実に幅広く研究・発信される荒俣さんが館長になってくださり、うれしい限りです。
荒俣さん 私は手恷。虫に始まるストーリー漫画を「これぞ命」と思った団塊の世代なんです。でも当時世間の評価は「漫画なんてとんでもない」。表だっては読めない時代をずっと過ごしてきました。芸大卒のアーティストは挿絵や子ども向けの漫画を描けず、もし描けば「絵師に成り下がった」と村八分。そんな枠が打ち破られるのに50〜60年。自治体が漫画に取り組む今は別世界のようです。
門川 ご自身も漫画家を志しておられたとか。
荒俣 大学生までは漫画家志望でした。「ろくな商売じゃない」と言われ、投稿すること自体勇気が。ただ貸本漫画の世界はゆるく、すぐ載せてくれるので喜びもありました。今だと漫画家になるのは相当厳しい。これだけハイ・アート(高級芸術)になるとね。
門川 漫画が大好きという唐仁原さんの作品は、少女漫画風の大きな目が特徴的ですね。
唐仁原さん 私も高校生のころ「週刊少年ジャンプ」に投稿していました。でも当時は、そうしたことは「オタク」とやゆされたので、高校・大学で油絵を描く中で漫画要素はずっとひた隠しに。漫画はロウ・アート(大衆芸術)だと思い込んでいて、羞恥心があったんですね。ただちょうど当時、村上隆さんや奈良美智さんが世界で認められたんです。漫画・アニメネイティブにとって当たり前と思える表現があれだけ評価されるとは驚きでした。そして大学院入試を前に思い切って出したのが、少女漫画風の目の表現。興味があった古典絵画(近世の西洋絵画)と漫画を交ぜて描くとしっくりきて。羞恥心との戦いがようやく終わり、今この作風で画家をしています。
唐仁原希さん荒俣 面白いな、羞恥心なんですね。われわれのころは漫画を描くのは「最後の抵抗をするゲリラ」という認識(笑)。一つの時代の変化を感じますね。
門川 実はマンガミュージアムをつくる時、「なんで漫画や?」と地元でも議論があったんです。しかし、設立から10年の間に約30万点がそろい、博物館的機能と研究、担い手の育成と大きな役割を果たしつつあります。この先の課題は漫画による新産業の創出。9月16、17日には6回目の「京都国際マンガ・アニメフェア」を、マンガミュージアムとみやこめっせで開きます。一昨年創設した京都国際漫画賞には今年、日中韓と台湾から350作品以上の応募があったんですよ。
荒俣 国家を挙げて取り組む彼らの漫画は今、絵はとにかくすごい。アニメやCGともつながり、原作者と原画家が分かれて一種の工場制でどんどん制作しています。対して日本の漫画は一人の作家のものという意識が強い。作品の奥深さを生む日本的な良いモード(様式)ではあるけど、いろんな産業の血流を促すメディアになるためには、この特徴の生かし方を考えないと。
唐仁原 自分たちの良いところほど見えづらいんでしょうか。
荒俣 おっしゃる通り。かつては新聞漫画など多様な形がありましたが、今はストーリー漫画偏重で、挿絵と漫画の間にいた人たちの生きるすべがなくなってしまった。でもアニメやCGにうまくつなげれば、「すごく細かい背景!」とか「時代劇の絵は天下一品」なんて人を生かす道もあると思うんです。

文化庁移転を機に、生活文化を再発見
唐仁原希 キミを忘れない 油彩・キャンパス/1620×1300mm/2016門川 日本では漫画をはじめ、生活における文化全般がこれまで「文化」としてあまり評価されてこなかった。しかしこのたび、文化芸術基本法が改正・施行。そこでは生活の中の文化に重点が置かれ、新たな施策が展開されることに。文化財の保護も大事ですが、それを活用することもこれからは重視されます。文化庁の京都への全面的移転決定で、そうした機運が高まっているのは心強いです。
唐仁原 日本では生活の中から生まれたアートが多いですからね。
門川 茶道でも野の花を一輪、床の間に飾ることから始まり、暮らしの中に文化が芽生えた。そういった衣食住と密接な文化を、もう一度大事にしたいですね。
唐仁原 まずは当たり前のものの価値を私たちが自覚することですね。浮世絵もパリ万博の時に工芸品の包装紙に使われていたのがヨーロッパで高く評価され、ようやく日本人もその良さに気付いたとか。
荒俣 日本のロウ・アーティストがつくったものが、海外から見たらハイ・アートだった好例。漫画も同じですよね。日本の美術表現的な文化の大本は生活の中の美意識、いわば“テイスト”。例えば京都の料理人は目利きした素材で料理を作り、“テイスト”を創造する。暮らし方も同じで「これはこういうふうに」という“テイスト”が土台にある。文化庁にも良い“テイスト”を持つ人が来てくれれば。
門川 これから文化庁の機能が強化され、全国の地域の多様な文化の掘り起こしや磨き上げが目指されます。それだけに京都の責任も重くなりますね。

漫画と共に進化するまち・京都
門川大作京都市長門川 マンガミュージアムでは、これからどんなプランを?
荒俣 漫画と少しでも息が通じ合うようなものはジャンルにこだわらず、どんどんつなげて漫画の可能性を広げていきたいですね。いろんなファインアート(純粋芸術)とも。
唐仁原 それはうれしいです。
荒俣 今、館内にある昭和30〜40年代の漫画を見返していますが、着物の描き方から何から素晴らしいものがたくさん。多様性に欠ける今とは随分違う。
唐仁原 最近は絵のバリエーションに偏りがあるように感じます。特に若い世代が好む作品は。高校で教えていた時、生徒たちが描くイラストも「かわいい女の子系」や「少年漫画風」の似通ったものが多かったですね。
荒俣 でも独自性を追求する漫画家も、京都なら活躍の場があるんじゃないか。例えばびょうぶ画や通りの装飾なども、すごいものができる可能性がある。
門川 新景観施策の下、京都市では3万の建物から屋上看板や大き過ぎる看板などを撤去していただく一方、美しいのれん、ちょうちん、銘木看板などには助成しています。そうした伝統的なものとおしゃれな漫画、アニメとのコラボもいいですね。
荒俣 街並みが変わりますよ。かつて江戸で山東京伝がのれんや手拭いのしゃれた模様をたくさん作ったように、京都で新しいものを。職人がそろう京都ならできます。
唐仁原 漫画を取り込んだ私の絵にも、小さな子どもから年配の方まですっと入ってくださるんです。漫画の要素は見る人の間口を広げ、優しいアートにしてくれます。漫画の「かわいい」という感性はすごく大事だと思います。
荒俣 京都では昔からそれをやっていたはずです。伊藤若冲(じゃくちゅう)も漫画のセンスがなければ、ああいう絵は描けないでしょう。
門川 マンガミュージアムの初代館長・養老孟司さんは、「漫画は知性、感性両方を同時に刺激する、だから皆に受け入れられる」とおっしゃっていました。
唐仁原 日本の漫画の主人公は正義だけじゃなく心に闇を持っていて、読者もそこに引かれる。日本には理屈で説明しきれない、白か黒じゃない灰色の文化がありますよね。
荒俣 京都はその典型で、陰影がある。だから谷崎潤一郎もせっせと通ったわけですよ。
唐仁原 街並みもすごくにぎやかかと思ったら、すっと空気感が変わる神社がある。何か目には見えないものを大切にしているところが京都の良さで、私もすごく引かれる部分です。
門川 そんな京都に、これからお二人はどんな期待を?
唐仁原 伝統産業・文化の歴史がすごいまちですが、新しいファインアートにも目を向けてくださったら。でももう実現しつつあってわくわくしています。最近若いアーティストが古い町家をスタジオ兼住居にしたりしていますが、リノベーション費用を京都市が助成してくれています。古いものと新しいものが交ざり合い、まちがさらに発展すると良いなと思います。
荒俣 都が東京に移った時、京都は新しいことをする人たちを先頭に立てて新たなまちに生まれ変わった。同じように今、漫画をはじめCGやアニメ、エレクトリックテクノロジーともつながれば、京都らしい新しいイメージのものが生まれる。そういう期待が大きくなってきましたね。
門川 あらゆる文化、産業との融合が大事ですね。文化庁移転とちょうど重なるように、市立芸大の京都駅東部(崇仁地域)への移転や美術館の再整備も本格化します。新しい多文化共生の拠点から、千年の歴史と世界、未来をしっかりつなぎ、平和に貢献したいですね。わくわくする動きが始まる京都を、これからもよろしくお願いします!




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