京都大好きトーク!

第四十五回 京都から伝統産業を活性化し、日本全国を元気に!
門川大作京都市長 × 矢島里佳さん(和える代表取締役) × 小嶋俊さん(京・地張り提灯専門 小嶋商店10代目)
門川大作京都市長さん・矢島里佳さん・小嶋俊さん 対談写真
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門川大作京都市長さん・矢島里佳さん・小嶋俊さん 対談写真
“aeru”の京都直営店「aeru gojo」(京都市下京区)での座談会に出席した皆さん

<プロフィール>
矢島里佳(やじま りか)/1988年東京都生まれ。慶應義塾大法学部卒業、同大大学院政策・メディア研究科修了。大学4年時の2011年、株式会社和える創業。“0から6歳の伝統ブランドaeru”を立ち上げ、全国の職人とオリジナル商品を開発、東京・京都に直営店を構える。京都市など行政の有識者委員や、京ものユースコンペティションなどの審査委員、セミナー講師などを多数務める。17年9月、アジア太平洋経済協力会議(APEC)域内の女性起業家を表彰する「APEC BEST AWARD」大賞・Best Social Impact賞をダブル受賞。12月に京都市文化芸術産業観光表彰「きらめき大賞」を受賞。
小嶋俊(こじま しゅん)/1985年京都市生まれ。寛政年間創業の地張り提灯専門「小嶋商店」の10代目。高校卒業後、父・護氏の下で提灯職人として修業を始める。主に竹割りを担当し、弟・諒氏(糸つり・紙貼り担当)らと共に提灯制作を行う。南座の大提灯をはじめ全国の神社などの仕事を手掛ける。2013年には初代の屋号「小菱屋忠兵衛」を照明ブランドとして復活させ、セレクトショップや飲食店などの現代的な内装を手掛けて注目を集める。17年からは「京の伝統産業わかば会会長」として、伝統産業の体験教室や出張講義も精力的に行っている。

お二人と伝統産業との関わり
矢島里佳さん門川市長 3月21日の「伝統産業の日」を前に、本日は伝統産業に新たな風を吹かせる「和(あ)える」代表・矢島里佳さん、京提灯(ちょうちん)老舗「小嶋商店」10代目の小嶋俊さんをお迎えしました。まずは矢島さん、そもそも伝統産業に興味を持たれたきっかけは?
矢島さん 東京生まれ、千葉のベッドタウン育ちの私は、伝統的なものと出会う機会のないまま育ち、日本人でありながら日本に憧れていたんです。そこで中学・高校時代は茶華道部に入り、大学時代は日本についてもっと知り、発信したいと、全国の職人さんを取材する企画を立ち上げ、旅行会社の会報誌で連載させていただきました。その中で職人さん手製のものを生活に取り入れるうち、「暮らしが豊かになる」と実感したんです。例えば職人さんが作ったお箸を使うとご飯がよりおいしくなる。職人さんの力を借りれば、私たちが抱く「豊かだけど、何だか豊かじゃない」という感覚を解消できるのではないか、そして、経済と文化の両輪で社会を豊かに育むことができるのではないかと考えるようになりました。次世代の子どもたちが“本物の日本”に出会える機会をつくりたいと考え起業した「和える」では、ものを通して先人の知恵や日本の伝統を伝えることに挑戦しています。
小嶋さん 僕も子どもがいますが、よく考えられてきちんと作られたものを子どもたちが使うのは、すごく良いことだと思います。
矢島 離乳食から使える「こぼしにくい器」は、内側に返しが付いていて、赤ちゃんや子どもでも食べ物をすくいやすい形です。“一生もの”を目指して、大人でも使えるシンプルなデザインにしました。どう役に立ち、どのような思いを贈りたいかを考え、それに応じて各地の職人さんにご協力いただいています。お選びいただいた方の行動が、結果的に“日本”を次世代につなげる循環を生めばと思っています。
門川 素晴らしいですね。一方、寛政年間創業の老舗にお生まれになった小嶋さんは、まさに伝統文化に浸って育たれた。
小嶋 生まれた時から提灯屋ですから、常に“日本”がありました。よく友達が家に遊びに来たのは、矢島さんと同じように、無意識のうちに“日本”に飢えていたからなのだと思います。
門川 家業を継ごうというお気持ちは、小さいころから?
小嶋 全然なかったですね(笑)。僕も弟も昔から図工が嫌いで、完全な“体育会系”。でも、父が竹を割ったりしている横でよく遊んでいました。その後、高校時代に祖父が病気になったのをきっかけに手伝い始めたんです。
門川 “地張り式”の提灯制作を今も続けるのは、京都でも数軒とか。
小嶋 一般的には竹ひごをらせん状に巻く“巻骨式”が多いのですが、地張り式は平骨(ひらぼね)で、割った竹を一本ずつ輪にして型にはめていきます。例えば本日お持ちした提灯の平骨は、全て1本の竹から。20本、30本と割って巻くと余りが出ますが、交ぜて使うことはしません。1本の竹なら明かりを入れると節の流れがきれいに出せますが、交ぜると節の位置がバラバラになるので。上と下の方はカーブがきつくなるので太めの竹を使います。
矢島 一つの提灯を作るにも、いろいろな技術と美学があるんですね。
小嶋 和紙を貼る弟の一番のこだわりは、極力継ぎ目が出ないようにすることです。
門川 お互いに極めるからこそより良いものができる。分業体制の良いところですね。

背中で伝え、継承する
小嶋俊さん門川 小嶋さんのお話を伺い作品を拝見すると、提灯を見る目が大きく変わりました。でも、こういう伝統の技の継承の流れが、世間では今途絶えかけています。親の背中を見て次の世代が育つことが大切ですが、今、何をなりわいにする人か、そしてその人の生き方が非常に見えにくくなっている。何とか「見える化」して継承しないと。
小嶋 うちは家で仕事をしているので、完全に職住一体で楽しかったですね。
矢島 どのような大人の背中を見せるかが、子どもたちが「大人になったら楽しそう」と思うか、「大人になりたくない」と思うかの分かれ道だと思います。
門川 京都市の小学校では、「次の町衆を育てる」というテーマで地域の人たちに自分の仕事について出張講義していただいています。小嶋さんも、若手職人さんが集われる「京の伝統産業わかば会」の会長としてご尽力くださっていますね。
小嶋 生まれた時からスマホがあった子どもにとっては伝統産業品が珍しいらしく、「提灯作ってはる! どういうこと、これ?」と目を輝かせてくれます。
門川 知人の表具屋さんの話では、「祖父の仕事の修理依頼がきて、良い仕事をしていたのが改めて分かった。自分も100年後に良い仕事だと評価してもらえるよう頑張らなければ」と。世代を超える匠(たくみ)の技とその背景にある精神性。この宝をきちんと伝えねば。伝われば後継者は必ず育つと思います。

若い感性とアイデアで、伝統産業を元気に
門川大作京都市長門川 小嶋さんは初代の心意気を受け継がれ、アーティストとのコラボなどにも積極的に挑戦しておられますね。
小嶋 初代は元々曲げわっぱの職人だったんです。修業先の娘と結婚して「商売が同じだとまずい」と、当時普及しだしていた提灯に商売替え。曲げわっぱの木を曲げる技術で、提灯の枠が作れると考えたようです。
矢島 まさにイノベーションですね。
小嶋 変にこねくり回すのではなく、ある技術をそのまま使う。その志を大事にしようと、弟と一緒に初代の屋号「小菱屋忠兵衛」を借りて新しい提灯ブランドを立ち上げました。いろいろな空間の照明に使っていただいて、金箔(きんぱく)を提灯に貼るなど、常に変化のある見せ方を考えています。ただ僕らには新しい物を作っている感覚はほとんどない。祖父の型をそのまま使っているので、仕事自体は何も変わらないんです。
矢島 和えるも、実は新しいことはしていないんです。赤ちゃんの市場も伝統産業の市場も以前からあった。でもそれを“和えた”ことはなかったんですね。
門川 産業のことは「むすびわざ」ともいいますからね。
矢島 それぞれのプロフェッショナルが“和える”から、イノベーションが起きる。
小嶋 そして皆が自分の好きなことを見つけてやれば、面白くなっていく。僕もふと「何でこんなに真剣に提灯のことを考えてるんやろ」と思うことがあります。でも単純に自分の家が好きで、それを次につなげたいからなんですね。
矢島 職人さんにはこういった自分のしたいことを貫く、かっこいい人が本当に多い。私も「こんなことができたらいいな」という自分の気持ちに素直に生きることを実践中で、今、京都のホテルに「aeru room」をつくるプロジェクトが動いています。職人さんの技術を生かした客室をつくり、空間を通して伝統を伝えるのがコンセプトで、「京都にいるのに、ホテルのお部屋に入るとどこにいるのか分からなくなる」という状況を変えたいんです。
門川 京都を感じてもらえるしつらえは、最高のおもてなしになる。ただし“ほんまもん”であることが重要。京都観光の最大の魅力は日本のものづくり、それと一体となる精神文化、京に伝わる日本の暮らしの美学を感じられることですから。
小嶋 うちでもホテルに提灯を置く話があります。紙を竹ひごに貼った提灯でもホテルでは防炎加工が必要な場合があり、「大量の提灯を同時に」となると大変です。でもご要望に応える態勢を僕ら職人側からつくっていかないと、とも思っています。
矢島 お互いに歩み寄るべきところですね。職人さんに良い仕事をしていただくには、それなりの時間も必要。「待つ楽しみ」も日本の大切な精神性です。
門川 京都では例えば、2千平方メートル以上の建物を建てる場合は京都府産の木材を一定量以上使うことなどを決めていますが、注文が集中すれば調達も難しくなる。うまく循環する仕組みを皆で努力してつくっていかないといけませんね。
矢島 集中を避けるためにも、「aeru room」は一部屋ずつ丁寧につくっています。ホテルを泊まる場所から、地域の文化・伝統が感じられ「地域が潤う起点」にし、さまざまな職人さんの仕事を知ってもらう場にしたいですね。
小嶋 難しいことだけど、面白いね。職人さんの中には、力があるのに出ていかない若い人もたくさんいて、僕もかつてはそうでした。周りの人が「あなたの技術はすごい」と伝えて、自信を持ってもらうのが一番だと思います。
門川 そうした伝統産業の技に身近に触れられる施設として、「京都伝統産業ふれあい館」が昨年、世界的口コミサイト「トリップアドバイザー」の無料観光スポットで国内5位になりました。海外からの「京もの」への注目はますます高まっています。今、74ある京都の伝統産業は非常に厳しい状況ですが、皆さん本当に手間暇と心を込めてつくっておられる。「年末の顔見世興行は京都の匠の技で成り立つ」といわれるように、伝統産業が衰退したら日本の文化は成り立たない。需要をいかに拡大していくかが大きな課題です。ちょうど今年はパリと京都の友情盟約締結60周年で、パリと京都の匠の技を融合させる企画も進んでいます。若い視点と知恵・実践力で大活躍のお二人。日本と京都の伝統産業の未来のため、これからもよろしくお願いします!

(小嶋商店の作業風景、体験の様子はこちらからご覧いただけます)





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