京都大好きトーク!

第四十六回 将棋や茶道をはじめ伝統文化に触れる豊かな生活を、京都から提案!
門川大作京都市長 × 羽生善治さん(将棋棋士) × 濱崎加奈子さん(有斐斎弘道館館長)
門川大作京都市長さん・羽生善治さん・濱崎加奈子さん 対談写真
門川大作京都市長さん・羽生善治さん・濱崎加奈子さん 対談写真
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門川大作京都市長さん・羽生善治さん・濱崎加奈子さん 対談写真
門川大作京都市長さん・羽生善治さん・濱崎加奈子さん 対談写真
門川大作京都市長さん・羽生善治さん・濱崎加奈子さん 対談写真
北野天満宮(京都市上京区)での座談会に出席した皆さん

<プロフィール>
羽生善治(はぶ よしはる)/埼玉県出身。15歳で当時史上3人目の中学生プロ棋士となる。89年、19歳で初のタイトル竜王を獲得。96年、竜王、名人、王位、王座、棋王、王将、棋聖の7大タイトルを独占し、史上初の七冠に。昨年、永世竜王を獲得し、前人未踏の「永世七冠」を達成。現在、竜王・棋聖。本年2月、国民栄誉賞受賞。『決断力』をはじめ著書多数。元女優の(畠田)理恵さんと2女の4人家族。趣味は旅行、チェス。20代から英会話の勉強も続ける。座右の銘は「玲瓏(れいろう)」。
濱崎加奈子(はまさき かなこ)/兵庫県出身。京都大文学部卒業。東京大大学院総合文化研究科博士課程修了、学術博士。専修大文学部准教授。「伝統文化プロデュース連」代表として伝統文化・産業の魅力を発信。2016年、北野天満宮の「曲水の宴」再興にあたりプロデューサーとして尽力。北野天満宮和歌撰者。京都市基本構想策定委員など行政審議委員を歴任。京都観光おもてなし大使として本年3月に北野天満宮の「京菓子コレクション」で講演。著書に『香道の美学』他。

伝統文化が息づくまち・京都
羽生善治さん門川市長 本日は、将棋棋士の羽生善治さんと有斐斎弘道館館長の濱崎加奈子さんがゲストです。まず羽生さん、史上初の永世七冠の達成に国民栄誉賞の受賞、誠におめでとうございます!
羽生さん ありがとうございます。永世七冠は初挑戦から約10年、達成できて本当に良かったです。国民栄誉賞は将棋界では初めてで、個人というより将棋の歴史や伝統、道のりも併せて評価いただけたと思っています。
濱崎さん 将棋だけでなく、広く日本の文化に目を向けるきっかけをつくってくださり、ありがたいですね。
門川 そして香道、茶華道、能楽、京菓子、花街などの芸能文化を研究する濱崎さんは、さまざまな文化発信のプロデュースも続けておられます。
濱崎 私は「新しい文化好き」な神戸のまちで育ったので、「日本の伝統文化って?」と好奇心が湧き、大学から京都に。そこで伝統文化の魅力にはまり、今はここ北野天満宮の「曲水の宴」の再興に携わらせていただいたり、壊されそうになった御所近くの学問所址(あと)を保存したりする活動を行っています。
門川 建物はもちろん、そこにつながる文化を守り、新たな創造も。また、伝統に気軽に触れられる催しも開いておられますね。
濱崎 はい。お茶会でお茶を頂くための講座や、お能の楽しい見方を能楽師と語らう会もあります。江戸時代の人々はお能などを通じて体を動かし、物語を吸収しながら倫理や美学を自然と学んでいたと思うんです。
門川 そんな伝統文化が息づく京都に、羽生さんは何度も来てくださり、今日もここ北野天満宮でたくさんの子どもたちを前にご講演。うれしい限りです。
羽生 京都の方が将棋を熱心に普及してくださり、対局でもいつも歓迎いただいて本当にありがたいですね。私は予選ではスーツですが、タイトル戦では和服。着物や扇子などは京都が本場でゆかりも感じます。帯を締め袴(はかま)を穿(は)くと文字通り身が締まるのですが、意外と和室で座る時は楽なんです。
濱崎 そうですよね。「今からご飯やし、緩めとこ」なんて調節もできますし(笑)。
羽生 実はプロになった時、師匠からお祝いに和服一式を頂きました。30年以上も前ですが、非常に丈夫で色もあせません。和服は本当に機能的で、エコな感じもします。
門川 古くなったら布団にし、ほどいた後は座布団に。生地が柔らかくなるから最後はおしめに。これをシメと言います。
羽生 本当ですか?(笑)
門川 ものを大事にする日本人の精神性です。ところで京都のまちは「碁盤の目」というけれど、むしろ「将棋盤の目」。そこに「金」閣、「銀」閣、祇「王」寺、「飛」雲閣、六「角」堂、「桂」離宮、御「香」宮と名所があり、究極は「歩」。歩くと健康にも環境にも、まちづくりにも最高。「歩」が「金」になる(笑)。
濱崎 「歩くまち京都」ですね。
門川 公共交通優先を推進し、マイカーで来る人が20年前は40%以上だったのが今ではおよそ9%に。住む人にも訪れる人にも快適なまちが、着実に前進していることを肌で感じています。

生活の中で伝統文化に触れる意義
濱崎加奈子さん門川 京都には17世紀半ばまで、江戸幕府公認の将棋の家元三家もあったそうですね。羽生さんには今度はぜひ二条城で指してもらいたい。
羽生 それはぜひ! 将棋のルールは先人たちが「どうしたら奥深く、より面白くなるか」と工夫を重ね、何百年という月日を経て洗練されてきました。そういう先人の知恵を学んでいくところも面白いですね。
門川 将棋は非常に「日本的」だともおっしゃっていますね。
羽生 はい。例えば取った駒を使えたり、自分と相手の駒が同じ色なのは他国の盤上ゲームではありません。また「伝統文化」としての位置付けも実は珍しく、海外では頭脳スポーツ。中国将棋の象棋(シャンチー)は体育局が管轄です。他の日本の文化の成り立ちとも無縁ではないのかなと。
門川 確かに世界の人が楽しむお茶、お花、香りが日本では「道」。柔道、剣道も「道を究める」。
羽生 将棋にもある種の作法があって、流派によって駒の並べ方が違ったりします。ルールで縛られてはいないのですが、自然と受け継がれていますね。
濱崎 「自然に」とはすごい。あいさつをはじめ将棋の所作もとても美しいですよね。
羽生 将棋は相手がいないとできないですから、敬意を表す意味で「お願いします」「ありがとうございました」と。チェスなら試合前に駒が並んでいますが、将棋は正座であいさつして駒を並べ、最後は全ての駒を一つの箱にしまい、一礼して終わるまでが一つの対局。
濱崎 茶道も何もないところから道具を出し、最後は何もない状態にして終わります。それに飲んでくださる相手があってこそ、というのも同じで、人と人との関係の上に成り立つ。なぜ作法や型から入るかというと、相手や自然への感謝、先人の知恵などに気付くため。そうした「当たり前」を忘れがちな今の時代、伝統文化に触れることはますます重要だと感じます。
羽生 一方、日常で伝統的なものに触れる機会が少なくなり、最近はコンピューターでしか将棋をしたことがない子も。ただ人工知能(AI)が発達すればするほど、逆に人間が生活の中で何を生み出していけるかが大事になると思います。例えばいくら発達したからといって、ロボットが俳句を読んでもしょうがないですよね(笑)。
門川 実は世界一クイズ番組が多いのは日本だそうです。しかし定型的な答えの記憶力より、「問いを立てる力」を養うことが大切。相手を尊び、先を読んで行動、厳しい状況になっても諦めないことを学べるのが将棋。だから「クイズ」でなく「将棋番組」をどんどんと! 伝統文化は何百年かけて磨き上げられ、そこに「ほんまもん」があるから人に感動を与えます。ところが昨年の文化庁の調査(15歳以上80歳未満対象)では、茶道・華道・囲碁・将棋など16種の文化に一つも触れたことがない人が3割に上るそうです。
濱崎 3割も。それは驚きですね。
門川 日本人が大切にしてきた暮らしの美学や生き方の哲学をしっかり伝えていかないと、日本が日本でなくなってしまう。そこで京都では、伝統文化が総合的に学べる茶道等を次代につなぐため、高校に茶室を設けるなどの取り組みを重ねています。また、10月から頂く宿泊税の使途は、市民にも観光客にもより良い環境の整備。さらに、京都に育つ子どもたちや京都で学ぶ15万人の学生さんにも文化を伝え、伝統産業等の活性化にもいかしていきます。
羽生 将棋はコミュニケーションのツールとして友達同士や家族、地域コミュニティーなどに存在することが非常に大事だと思います。アジアの多くの国にそれぞれ将棋があり、日本の将棋を一方的に発信するというより、互いの文化や歴史、伝統を知って交流すれば友好につながるのではないかと。言葉が分からなくても共感できる伝統文化には、すごく大きな可能性があると思います。
門川 おっしゃる通りですね。

京都から、伝統文化を未来につなぐために
門川大作京都市長門川 羽生さんがこれからの京都に望まれることは?
羽生 京都の今ある風景がこれからも、ずっとあってほしいですね。本来まちは人が行き来し、暮らす中で変わっていくものですが、これだけ長い歴史を持つまちは、変わらないことにこそ大きな価値があると思います。
濱崎 本当に。変えないことの意識は京都にとって、とても大事だと思います。変わらないものがあるからこそ、京都では新しいものもたくさん生み出されてきたので。
門川 千年の都・京都の価値をいかに継承するか。この10年、景観政策を重視。3万の建物から看板を撤去、建物の高さ制限、デザインの規制強化などにより、まちが美しくなったと評価いただいています。その一方で、町家は毎年800軒も解体されているんです。
濱崎 一日2軒以上ですか。
門川 全国の歴史都市は同じ危機に直面しています。その危機感から今年の3月に「京町家の保全及び継承に関する条例」をつくり、市が指定した家屋は解体する1年前の届け出を義務付けることに。同時に保存のための支援策も整えていきます。国にも「町家として持つ限り相続税猶予等を」と訴えていますが、なかなか。
濱崎 ぜひ京都だけでもまず特区に。京都には人間の歴史が積み重なった、世界に通じる普遍的な価値があり、だからこそ文化庁も来るので。
羽生 京都は他に似たところが全くないからこそ、多くの人が魅力を感じて訪れる。対局で訪れる各地で思うんですが、新しいショッピングモールや空港は画一的で、便利だけど本当にそれで良いのかなと。どれだけ独自のまちをつくっていけるかが、これから非常に大事になると思います。
門川 日本全国が文化により活性化されるために、文化庁は京都にやってきます。日本人が大事にしてきた文化を守り、発展させ、人が育つ京都に。文化をつなぐお二人には、ますますのご活躍を!




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