京都大好きトーク!門川市長とゲストの“きょうかん対談”

第六回「いのち」 ふところ深く「いのち」をはぐくむまち
門川大作京都市長 × 江川紹子さん (ジャーナリスト)
門川京都市長・江川紹子さん 対談写真
門川京都市長・江川紹子さん 対談写真
門川京都市長・江川紹子さん 対談写真
京都市左京区・国立京都国際会館にて
<プロフィール>
江川 紹子氏/1958年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、神奈川新聞社の社会部記者に。退社後フリーライターとなり、1989年の坂本弁護士行方不明事件からオウム真理教と関わる。近年は冤罪事件や青少年問題に取り組み、近著は『勇気ってなんだろう』(岩波ジュニア新書)。

京都のふところの深さ、地域力
江川紹子さん門川市長 江川さんのお話や書かれたものを読んでいて、「感性がすごいな」と感じます。ブレない、流されない。鋭い。それでいて優しさにあふれている。今日は、お会いするのを楽しみにしていました。
江川紹子氏 ありがとうございます。実は、京都には忘れられない思い出があるんです。地下鉄サリン事件のあと、オウム真理教の信者の子どもが当時いた地域から追い出されることがありました。どこにも行けない状況の中で、その子たちを京都が受け入れてくださったんです。
門川 そのころ、私も教育委員会にいましたのでよく覚えています。当時オウムに対して、社会の厳しい目は、元信者の子どもたちにまで及んでいました。オウムの子どもの受け入れは、「一人一人の子どもを徹底的に大切にする」京都の教育の伝統が試されている事例だと思い全力投球しました。あのとき、ある地元の方が「子どもに罪はあらへん。ええがな」と受け入れに理解を示してくれた。あらゆる文化を受け入れながら、独自の文化を築いてきた京都の「寛容の精神」をあらためて感じましたね。
江川 私も、京都のふところの深さに感動しました。世の中ってキレイごとや権利と義務だけで成り立っている訳ではなくて、あらゆるものを受け入れる"寛容さ"が必要ですよね。京都は、だてに歴史があるまちじゃない。不測の事態や課題に直面したときに、どう向き合うか知っている。京都の真価がわかりました。
門川 大切にしたい京都ならではの地域力であり、人間力ですね。

一致点を広げ、まち全体で子どもを育てる
門川大作京都市長江川 オウムの事件をきっかけに、若い人が「どうやって人生を選択していくのか」ということに関心を持ったんです。理屈だけ考えても「なぜ事件が起こったのか」はわからない。それから,たくさんの若者と話をしました。
 よく「若者には、夢がない」といわれます。でも私も十代のときには、明確な夢なんてなかった。自分の夢ややりたいことって、人との関わりの中で見つかるものですよね。今はその関わりの機会がとても少なくなっています。
門川 実は私、「趣味は?」と聞かれると、いつも「人間浴」と答えているんです。人間の感性や感じる力は、多くの人との関わりによって得られるものが、温泉の成分のようにひたひたと肌に浸透しながら培われていくものだと私も思います。だから、私にとって「人間浴」は欠かせない。インターネットのつながりでは、ひたひたと肌に浸透してくるものはないですからね(笑)。
江川 若い人たちにとって、いろんな人の人間性にふれ、意見を聞きながら自分で考えていくことがとても大切です。私も信念がある方ではないのでグラグラ揺れる。でも迷うことによって考える。最初から「これ」って決めてしまうのではなく、迷うプロセスが大事だと思います。今の世の中、直線的に、最短距離で目的地まで行くことが多過ぎますよね。すぐマルかバツかの二者択一にして。メディアがあおっている部分もあると思います。でも社会はもっと複雑で、どちらでもないことも、すぐに理解できないこともある。それに耐えることが必要だと思います。
門川 政治の世界では、対立軸を明らかにし、選択を迫ります。でも教育や地域のコミュニティ活性化は、違いを強調していては前に進まない。京都の教育は、子どもを真ん中にして、できるだけ一致点を見出し、それを広げながら一緒に行動することを大事にしてきた。だから、市民ぐるみの教育が進み、地域の活性化にもつながります。
 今、京都では、7割以上の小学校が、保護者や地域の方が学校運営に参画する学校運営協議会設置のコミュニティスクールになっています。また、「大人はみんな先生に、まち全体を学びの場に」を合言葉にして、地域の人が先生になる「みやこ子ども土曜塾」や「放課後まなび教室」などの取り組みも進んでいます。
江川 素晴らしいことですね。保護者と子どもの関わりということで言うと、私は、ぜひ授業の中で、臓器移植の問題を考える機会を作ってほしいんです。もし自分が死んだ時、自分の臓器で人の命が助かるとしたらあなたはどうするか?作文に書いて両親と話をする。そうしたら、子どもとのやりとりが生まれる。命について考える大切なきっかけになります。
門川 京都の小学校でね、妊婦さんに来てもらって授業をしているんです。赤ちゃんが生まれたら学校に連絡が入って、みんなで誕生を喜ぶ。すると自分が生まれた時にも、こんなに多くの喜びがあったんだと子どもたちが実感する。そんなふうに、子どもが感じる機会、感性を育む機会を意図的につくることが大切ですね。
 今の教育の最大の課題は、子どもの学びと家庭や社会とが乖離(かいり)していることだと思います。戦後、教育の世界では、宗教も、政治も、経済も、全て一線を画しました。現実社会で一番影響を与えるものを教室では真空状態にした。だから大学の経済学部を出て、借金地獄に陥ったりする。
江川 おっしゃるとおりで、子どもを「無菌状態」に置いてはいけないと思います。今の世の中、いい面だけを見せている。成功例ばかり。でも、失敗した人たちから学ぶことも多い。私はよく「東京に修学旅行に来る子どもたちに、東京拘置所を見学させたらどうですか?」って言うんです。もし、オウム事件の死刑囚たちが自分の人生の失敗を直接語るようなことができれば、子どもたちが得るものは大きいはずです。
門川 中学生が5日間の職場体験学習をする「生き方探究チャレンジ事業」では、3700の事業所で5日間、子どもが職業体験学習をしています。また、「京都まなびの街 生き方探究館」では、区役所やコンビニ、新聞社、メーカーなど、実際の会社の仕事を体験しながら、子どもたちが学んでいます。京都の企業やボランティアの協力で、社会と学びの場を結ぶ取り組みが進んでいます。

京都は悠久の時が流れる日本の原点
門川 最後に、江川さんにとって、京都はどんなところですか?
江川 夏は暑くて、冬は寒い(笑)。自然の恵みにあふれていますね。まちを歩いていて普通に歴史遺産や文化財に出合える。しみじみと「京都は日本の源流」だと思います。便利さや効率だけじゃない価値感がある。よく「うまくいかないときは原点に返れ」と言いますが、あらゆる課題に直面している今こそ、「日本の原点・京都」に返るときなのかもしれませんね。京都の暮らしや生き方が、これからの日本を考えるヒントになると思います。
門川 今の日本は、政治、経済、情報、あらゆるものが首都圏に集中し過ぎています。最近「3D」が流行っていますが、3Dはなぜ立体的に見えるかというと、視点が一つではなく複数あるからですね。同じように、東京とは違う視点を持つ京都や関西から、さまざまな情報や価値感、取り組みを発信していかないと、「ほんまもんの日本の姿」は見えてこない。その信念で、これからも京都の果たすべき役割を市民ぐるみで全うしていきたいと思います。今日はありがとうございました。



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