京都大好きトーク!門川市長とゲストの“きょうかん対談”

第八回「知恵」 まちじゅうに「知恵」があふ溢(あふ)れるまち
門川大作京都市長 × 養老孟司さん (東京大学名誉教授、解剖学者、京都国際マンガミュージアム館長)
門川京都市長・養老孟司さん 対談写真
門川京都市長・養老孟司さん 対談写真
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<プロフィール>
養老孟司(ようろうたけし)1937年、神奈川県生まれ。東京大学名誉教授、解剖学者、京都国際マンガミュージアム館長。社会の事象を脳の機能やしくみから解き明かし、マンガやアニメにも造詣が深い。ベストセラー『バカの壁』や『マンガをもっと読みなさい 日本人の脳はすばらしい』(共著:牧野圭一)など著書多数。

マンガと日本文化
養老猛司さん門川市長 京都に世界初のマンガ博物館をつくろうということになったとき、館長の人選を、当時の文化庁長官・故河合隼雄先生らに相談しました。そして、日本を代表する知識人、幅広い教養人で、しかもマンガが大好きでいらっしゃる養老孟司先生しかないということになり、お願いしたのです。快諾いただいたときは、関係者みんなから歓声が上がりました。
養老孟司氏 うれしいと同時に気恥ずかしいですね(笑)。私は解剖学をやってきましたが、解剖図って一種のマンガなんですね。そんな身近な思いもあり、もちろんマンガも大好きなので、喜んでお受けしました。
門川 マンガミュージアムができた元龍池小学校は、私の母校なんです。明治の初めに市民の力でできた番組小学校ですから、構想時は「京都の中心地になぜマンガの博物館をつくるのか?」と反対意見もありました。けれども、「伝統文化とともに新たな文化創造の拠点であり続けた京都だからこそ、世界から注目される日本のマンガ文化の拠点にふさわしい」と、地元のみなさんも賛同され、協力してくださいました。
養老 私も、東京やほかの都市ではなく、京都にあることが意義深いと思っています。
門川 出版社やコレクターの方々も、「京都にできるのなら」と多くの貴重なマンガを寄贈いただきました。今、明治期も含めた国内外のマンガ関連資料約30万点を収蔵し、マンガ文化の研究や人材育成にも力を注いでいます。おかげさまで開館からの入館者も100万人を越え、京都の人気スポットになっています。
 ところで養老先生は、マンガは右脳と左脳の両方に作用するもので、脳科学的に見て日本でマンガ文化が発達しやすい、というようなことをおっしゃっていますね。
養老 日本人は、中国から伝わった漢字を「日本語」にしました。この漢字はもともと象形文字、つまり「絵」だったのです。日本人は漢字を「絵」として右脳で直感的に認識する。さらに日本人は、漢字に送り仮名をつけて訓読みさせた。この訓読みは、左脳で音を通して意味を論理的に認識する。漢字に訓読みのルビが振られることがありますが、これはまさにマンガの絵と吹き出しのセリフの関係に似ている。だから日本人の脳にとってマンガは非常になじみやすいわけです。
門川 なるほど、そういうようにマンガの位置づけをきちんと考えていくと興味深いですね。京都には日本のマンガの起源の一つともいわれる鳥獣戯画をはじめ、仏教絵画も数多くあります。こういったものからもマンガの表現や技法は発達したといわれていますね。
 京都はいろんな文化が集まり、蓄積されています。海外からお客さまが見えたときに、京都のいろんな文化に関心を持たれますが、最近とても関心が高いのはマンガなんですね。
養老 ちょっと意外な観点ですが、外国人はよく、マンガがどういう風に描かれるか興味を持ちます。日本のマンガのキャラクターは線で輪郭を描きますが、西洋の絵は色で塗り分けて輪郭を出します。同じように見えて描き方が違うんです。これは単に技法の違いではなく、頭に入った情報をどう感じ、どう処理するかという辺りの、日本人と西洋人の脳の働きの違いだとも考えられます。
門川 マンガを通じて日本と外国の感覚の違いや文化の特性などが見えてくる。そんなマンガの有用性もありそうですね。先生のお話を伺うと、ますますマンガの可能性やこの京都国際マンガミュージアムの意義を確信します。

普通の営みの中にこそ京都のすごさがある
門川大作京都市長養老 私は首都圏唯一の古都、鎌倉に生まれ、現在も住んでいますが、鎌倉は小さい。東京までになると大きすぎる。その点、京都は都市としてのサイズがちょうどいい。古い建物を残し、伝統も文化も産業も独自のものを守り育て発展させていくのに最適な都市の規模で、実際にそれを実践しておられる。
門川 鎌倉も素敵なまちだと思います。私は常々、都市の大きさや政治や経済の規模では東京が勝っても、それ以外の面では京都が全国一の都市を目指したい、そのポテンシャルを京都は持っている、そんな風に思っています。
養老 あと思うのは、京都の商いの知恵ですね。「一見さんお断り」というのは、よくお高くとまっていると思われがちです。でも実は、お得意さんというのはサービスが下がることに敏感なので、お得意さんを大切にするということは絶対に質を落とせないということです。それを長年続けるのは大変なことですが、長い目で見てそれが商いのコツだと知っている。
門川 京都の人は、守るべきことはしっかりと守り、次の千年へつないでいこうとします。でも決して"かたくな"ではないんですね。守るべきものを守るために、変えるべきはしっかり変える。常に新たなものや外のものを受け入れ、融合しながら、文化や産業や暮らしを育む。そんなふところの深い知恵が京都にはあると思っています。
養老 そんな風にして京都は上手に良いものを残してきたんですね。ある人が「伊勢神宮は特別な場所だが、それを現在、維持しているのは普通の人だ」と言っていました。これは大事なことで、"ただの人"が日常的に維持していけるようなものでなければ物事は続かない。京都も同じ。特別な場所で、特別な人が維持しているんじゃない。普通の人が普通に暮らして、そして維持できている。何でもないようで、これは難しいことだと思います。
門川 京都の小学校では、授業の中で、地域の職人さんに話をしてもらうことがあるんです。お願いすると「私はただの職人で、人にお話しするようなことは何もないですよ」とおっしゃる。でも「いつもの仕事のことで構いませんから」とお願いして話していただくと、それが驚くようなすごい価値のある内容なんですね。地域の人の普通の営みの中に千年の知恵がある。これこそが京都の強みでしょうか。
養老 そうですね。"ただの人"って言うけれど、やっぱりずっとやってきたっていうのは"ただの人"じゃないですよ。
門川 京都市ではこの10月に、産業技術研究所繊維技術センターと工業技術センターを統合して「新産業技術研究所」を開所しました。伝統産業と先端産業を融合して、新たな京都ブランドを創出する「知恵産業融合センター」も開設しました。さらに、普通の人が受け継ぐ伝統の技や、大学や研究機関などが持っている知恵、マンガや映画、ゲームなどのコンテンツも生かして、いろいろなパワーをミックスして新たな知恵産業を生み出したいと考えています。
養老 マンガのように京都というまちの"次の展開"がますます気になりますね(笑)。期待しています。
門川 マンガ家の先生方のようにわかりやすく描ければいいのですが、実際のまちづくりはなかなか難しいです(笑)。でも市民のみなさんとの"共同執筆"で共に汗して全力でがんばります。今日は、どうもありがとうございました。



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