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欠かせぬ存在、苦痛に配慮 <変わる生の形 動物実験>

滋賀医科大で飼育されているカニクイザルの子ども=同大学提供
滋賀医科大で飼育されているカニクイザルの子ども=同大学提供

 iPS細胞(人工多能性幹細胞)をはじめとする医療研究で欠かせない過程がある。動物実験だ。基礎科学で使うだけでなく、新薬の開発では、人への安全性や効果を前もって確認するために動物で試験する。私たち人間が健康を願う陰にある「隣人」の生を考えたい。

白衣を着てエレベーターを出ると獣のにおいがしたが、思っていたより気にならなかった。大津市の滋賀医科大動物生命科学研究センター。飼育スペースでは、ケージの中からくりくりしたカニクイザルの目がのぞいた。そばには「ショウコ」と書かれた木札。「愛着を持ってつらくなる人もいます」。案内してくれた職員が説明する。

 同センターには約700匹のカニクイザルが飼育されている。国立大としては最大規模という。だが施設内を記者が撮影することは許可されなかった。社会の受け止めを気にする様子が伝わってきた。

 「サルでなければ実験できないヒトの病気の研究がある」。小笠原一誠センター長(63)は、サルを使う有用性を強調する。京都大iPS細胞研究所と2012年から、拒絶反応を起こしにくい遺伝子型のiPS細胞の移植について共同研究を進める。ヒトによく似た免疫のタイプを持つカニクイザルで移植した時の安全性を確認する狙いだ。

 医学の進展に必要な動物実験。頭では分かっていても、100匹以上がひしめくケージを前にすると、たじろいでしまう。ただ滋賀医大では、実験に使う動物に不必要な苦痛を与えないよう心を配っているという。

 同大学では02年ごろに動物保護団体の指摘を受け、動物の扱いを改革した。有害駆除されたニホンザルを使っていたが、実験用に繁殖させたカニクイザルをフィリピンの専門施設から買い取る方式に変更した。各研究者が動物実験をする際には、計画書を大学の委員会に提出させ、実験に使う個体数や苦痛をのぞく麻酔薬の使用などで動物への配慮が十分か確認するようになった。

 実験施設を案内してくれた土屋英明さん(51)は愛犬家という。実験動物については「死んでも、悲しいと思わないように努めている」。動物に望まない死を強いているが、かわいそうだと思っても止められない。仕事に誇りはあるが、「きれい事では済ませられない」とも語る。

 京大iPS細胞研究所では、動物実験を減らすことにつながる研究も進む。藤渕航教授(50)が目指しているのは、ヒトのiPS細胞とES細胞(胚性幹細胞)を、化合物の毒性試験に活用する手法の開発だ。

 まずES細胞を使って有毒な化合物を添加した場合の反応をデータベース化し、動物実験をせずに安全性を確認できるようにしたいという。製薬や化学、化粧品などの企業から関心が高まり、7月には「幹細胞を用いた化学物質リスク情報共有化」コンソーシアムを設立した。今後数年で、約200種類の毒性化合物のES細胞への反応を提供する。最終的には、ES細胞より利用しやすいiPS細胞を使って毒性試験の実施を目指す。

 ただES細胞やiPS細胞にも限界はあるという。薬剤の毒性は、複数の臓器がつながった「生体」で確認する必要があるからだ。「動物実験の重要性は残るのではないでしょうか」(全12回の9回目)

 ◇

 京都新聞では、iPS細胞が誕生してから10年となるのに合わせて、2016年から連載「いのちとの伴走」を掲載してきた。研究の最前線に加えて倫理やビジネスなどさまざまな角度から、iPS細胞が社会に及ぼす影響を探った。iPS細胞が切り開く未来はまだ不透明だが、一方でロボットや脳を扱う科学は既に、私たちの生命観に変容をもたらしている。最後となる第6部では、現代科学が変えつつある「生の形」の全体像を描き出したい。

【 2018年01月19日 16時12分 】

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