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人間以外に「権利」広がる <変わる生の形 動物実験>

家畜に配慮した飼育環境を研究する二宮准教授(岐阜市・岐阜大)
家畜に配慮した飼育環境を研究する二宮准教授(岐阜市・岐阜大)

 人間に命を絶たれることが前提となっている動物には大きく2種類ある。科学の研究に不可欠である実験動物と、肉などの食物となる家畜だ。人間として、同じ命を持つ彼らに何ができるだろうか。近年は「動物倫理」や「動物福祉」といった領域で議論が進んでいる。

 「人間と動物を分ける理屈を見いだすのは難しい」。動物倫理を研究する京都大文学研究科の伊勢田哲治准教授(49)は指摘する。「誰もが平等」という人権思想を基に、人間は数百年かけて人種や性別による差別をなくそうとしてきた。科学的には、一部の動物には「意識」があるとも見なされている。こうした流れの先に「人間と同じように苦しむ存在」の動物の権利に関する議論がある。

 だが、現代社会では人間の命はほかの動物より大事という前提が存在する。安全性が不透明な中で人間対象の実験はできない。伊勢田准教授は「現実的な対応として、実験動物の苦痛と使用数の削減、代替法の検討をした上で実験が認められるべきという動物福祉の考え方が広まった」と説明する。こうした理念は、2005年の改正で動物愛護法に盛り込まれた。

 動物福祉でも、全ての動物が配慮を受ける訳ではない。伊勢田准教授によれば配慮の対象は、脳や神経系があって「苦痛」を感じられるとされる動物に限られ、昆虫などは対象になっていない。

 動物の種類による区別はある程度、理解できる。ただ、同じイヌやウサギでも、温かい家庭で暮らせるペットと実験動物や家畜の間にある差には違和感がある。「正当化は難しいですよね」。伊勢田准教授も認める。その上で、「倫理に正解はない。私たちがこれまで築いてきた議論を、現実に合わせて手直ししていくしかない」と語る。

 近年は、欧州を中心に家畜の快適な飼育環境を重視する動きが広まっている。国内でも家畜の福祉向上が模索されている。

 動物行動学が専門の岐阜大の二宮茂准教授(39)は畜産農家と協力して、適切な飼育環境の研究をしている。だが「動物の心の中身を科学的に分析するのは難しい」と率直に語る。

 異常な行動は観察できる。食事していないにもかかわらず舌を動かし続ける牛、馬房の中で首を振り続ける馬。行動への欲求を満たせないことが原因とみられ、飼料に草を多く含ませたり広い場所で飼育したりすれば解消できることが知られている。しかしまだ知見は十分にそろっておらず、発展途上の分野だ。

 二宮准教授は「科学的な知見に基づいて、適切な飼育環境を提案するのが仕事」と解説する。畜産農家も、以前から動物の飼育環境には気を配ってきた。科学的知見と組み合わせて、健康に育てて生産性を上げることにつなげたいという。「あくまでも人間社会への貢献が目的です」

 私たちが生きていく上で、実験動物や家畜は利用せざるを得ない。彼らの尊厳を考える意味について、明確な答えはない。だが食事や薬を服用する時に、犠牲になった動物たちの命に思いをはせることは無駄ではないだろう。(全12回の10回目)

 ◇

 京都新聞では、iPS細胞が誕生してから10年となるのに合わせて、2016年から連載「いのちとの伴走」を掲載してきた。研究の最前線に加えて倫理やビジネスなどさまざまな角度から、iPS細胞が社会に及ぼす影響を探った。iPS細胞が切り開く未来はまだ不透明だが、一方でロボットや脳を扱う科学は既に、私たちの生命観に変容をもたらしている。最後となる第6部では、現代科学が変えつつある「生の形」の全体像を描き出したい。

【 2018年01月19日 16時19分 】

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