ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

自閉症の人に寄り添う


児童精神科医、京都市児童福祉センター副センター長

門 眞一郎さん




「PECS(ペクス)」の教材を確認する門眞一郎副センター長(京都市上京区・京都市児童福祉センター)
 症状が軽い人も含めた「自閉症スペクトラム」の臨床に取り組んでいます。自閉症の人は言葉でコミュニケーションがうまく取れません。周りから理解されず、誤解されます。早い時期に支援すれば、改善の効果は高いです。

 医者を志した理由は特にありませんが、父親が開業医で長男だったので、小さいころから医者になるものだと思っていました。子どものころはおとなしい、引っ込み思案だったと思います。医学部に入りましたが、医学だけでなく、哲学や文学もやれ、と父親から言われました。人間の幅を広げろということだったのでしょうか。卒業前に、家業を継ぐために内科か、高校時代から興味があった哲学に近い精神科か、で悩みました。民主的な教室運営にもひかれ、精神科を選びました。

 当時、自閉症は言葉としても珍しく、児童精神医学の授業も2コマしかありませんでした。この授業を行っていた日本の児童精神医学の草分けの一人、高木隆郎助教授(当時)が恩師となります。自閉症は未開の分野で、自分が活躍できる可能性があると考えました。

 自閉症は、病気のような見方をされますが、一言でいって「めりはりが利いた発達をした人」だと思っています。得意と苦手がはっきりしています。言葉が理解できないなど「めり」、見えるものは理解しやすいという「はり」があります。診断では、「めり」ばかりを捉えがちですが、視覚優位という「はり」に注目しています。その支援法の一つが「PECS(ペクス)」です。PECSは、米国デラウェア州で始まった絵カード交換式コミュニケーションシステムです。絵や写真のカードを使ってコミュニケーションをとります。十数年前に私たちが日本に紹介しました。コミュニケーションは双方向性ですが、これまでのプログラムは応答することから教えます。このシステムは自発的に表出(伝える)することから教えます。誰かの指示がなくても、自ら意思を伝えることを促しています。その効果は実証されています。

 臨床研究は進んでいます。専門書の翻訳はいくつか出しましたが、著書は出さずにホームページに掲載しています。出版後に研究内容が変わった場合、対応できるからです。

 最近は知的障害のない自閉症の人が増えています。けなげな人が多いです。2005年に施行された発達障害者支援法でこの人たちも社会的に認知されました。でも本当の支援ができているのか心もとないです。自傷行為のある人に対してはよくわかりません。難しいですね。自閉症スペクトラムにはコミュニケーション支援が最も大切です。本人の思いを伝えられるようになってほしいです。今後とも療育機関・学校などへのPECS普及に努めていきたいです。


かど・しんいちろう
1948年広島市生まれ。73年京都大医学部卒業。
ロンドン留学などを経て、81年から2010年まで京都市児童福祉センター勤務。その後、非常勤に。2000年から副センター長。日本児童青年精神医学会第50回京都総会会長など歴任。