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誰もが持ってる小さな国

 「起こったこともなく、起こり得るはずもないこと。だが、起こったかもしれないと思わせること」。米国の作家ロバート・ネイサンはファンタジーを、そう定義した▼その言葉通りに、物語で活躍する小指ほどの小さな人、コロボックルが本当にいると信じた人はきっと大勢いるだろう。日本初のファンタジー小説とされる「コロボックル物語」の作者佐藤さとるさんが亡くなった▼子どものころ、夢中になって何度も読み、主人公のせいたかさんが彼らに出会う鬼門山や三角平地がうちの近くにもないかと探した日々が懐かしい。想像力を刺激する物語は柔らかな優しさにも満ちていた▼戦争を体験した佐藤さんは「読んだ子どもたちが平和を愛する、思いやりを忘れない人間に育ってほしい」と願っていたという。かつて起こり、今も起こり得るが、起こってほしくないことばかりが現実になる時代に、作品は輝きを増す▼第1作「だれも知らない小さな国」から24年かけた全5作はこれからも読まれてほしいが、人気作家有川浩さんが佐藤さんの勧めで続編に取り組んでいる。珠玉の物語が時代を超え受け継がれていくのは何とうれしいことだろう▼「人が、それぞれの心の中に持っている、小さな世界」を大切にしなければ-。佐藤さんが残した言葉だ。

[京都新聞 2017年02月23日掲載]

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