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初観音

 わが国で最も広く愛されてきた仏といえば観音菩薩だろう。人々の願いに応じて33の姿に変化し、救ってくれる大変有り難い慈悲の仏だ▼きのうは各地で今年最初の縁日である「初観音」が営まれた。いい機会だと思い、長浜市高月町の渡岸寺観音堂(向源寺)を訪ね、美しさで名高い国宝十一面観音菩薩立像と久しぶりに対面した▼仏像の維持管理は地元住民でつくる保存協賛会が行っており、手分けして境内の雪かきや案内などをしている。初観音といっても地元住民が数人集まって法要をするほかに特別なことはしないそうだ。穏やかで静かな縁日である▼十一面観音はいつものエキゾチックなお顔とわずかに腰をひねった豊麗な姿で迎えてくれた。奈良時代、聖武天皇の勅願で作られたと伝わる仏像だが、彫った仏師は不明という▼姉川の戦いなど戦乱の際に村人が土に埋めて守ったという話が残る。そんな地域住民の厚い信仰がなければ、日本彫刻史の傑作に数えられる仏像を今日見ることはおそらくできなかっただろう▼作家の井上靖氏はかつて湖北の仏像が鎮護国家や仏法守護とさして関係なく、素朴で切実な庶民の信仰の対象になってきたことへの感動を記した。救い、救われる関係が当たり前のように日常の中にある。失いたくない信仰の形だ。

[京都新聞 2017年01月18日掲載]

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