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運輸安全委

 薫風とともに今年も鎮魂の日が過ぎた。甲賀市信楽町では新緑とヤマツツジが絶妙な色彩を見せていた。信楽高原鉄道の列車衝突事故から27年。死者42人、負傷者628人の痛ましい事故▼くの字形に曲がり、白煙をあげる列車。新人時代に取材した。大事故も人々の記憶は薄れ日を追って消えていく。だが凄惨(せいさん)な事故現場と遺族の号泣する姿がまぶたから離れない▼元遺族会世話人代表で鉄道安全推進に尽くした吉崎俊三さんが今月2日、亡くなった。事故への憤りと妻の尊い命を無駄にしないとの重い使命感が行動の原動力だったのだろう▼他の遺族らと事故原因の徹底究明と再発防止を訴え、事故専門の調査機関を国に働き掛け、国内初となる航空・鉄道事故調査委員会を実現させた。現在の運輸安全委員会である▼同委員会は事故・トラブルを調査し、改善を促すという鉄道の安全に関わる重要な役割を担う。「鉄道事業者は人命を第一に」「命はかえらないが、事故の悲惨な犠牲を将来にいかしたい」。吉崎さんは目を光らせてきた▼運行側の安全意識の不十分さや車両・施設技術伝承など鉄道の安全を巡る課題が再び浮き彫りになっている。監視役として運輸安全委への期待は大きい。国民に信頼される機関に―。天国にいる吉崎さん夫妻も見ている。

[京都新聞 2018年05月20日掲載]

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