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風の名を集めて

 街角のフリーペーパーで、みずみずしい文章に巡り合うことがある。紙の向こうの人を想像する。西陣の古書店カライモブックス発行の「唐芋(からいも)通信」から。店主の幼い娘さんは散歩の時、風を怖がるそうだ▼なんで?<「風はみえへん」と、いう/風はおとうさんにもみえへんよ、と言っても信じてもらえない/自分ひとりだけ風がみえない、と恐れるみっちんの孤独を思うといてもたってもいられなくなる>▼エッセーに誘われて、風の名前を調べてみた。花嵐、薫風(くんぷう)、天(あま)つ風…古来多くの風の名がある。風光る季節。京都府方言辞典にはアタゴオロシ、ヒカタなど地方名も▼福島県南相馬市から京都に避難中の知人にも聞いてみた。ひゃっけー風、まなぬれー、いあんべ風など懐かしそうに教えてくれた。最初のは冷たい北風、続いてぬるい西風、そよ風のこと▼相馬弁の豊かな風の名簿は海沿いの地形が育んだのだろう。原発事故後、どぎつい色で塗り分けた福島の空間放射線量と風向きの地図。事故は風の名も奪った▼みっちん、風が見える魔法はまだ見当たらない。代わりに、米国の先住民ナバホ族の神話を紹介します。トウモロコシから最初の人間は作られ、風が命を吹き込みました。試しに指先をじっと見てごらん。きっと風の足跡が見えるはず-。

[京都新聞 2014年04月12日掲載]

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