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大みそか

 私たちは起きていても、約1割の時間を暗闇で過ごしている。まばたきである。1回0・3秒で、1分間に平均20回。1時間では6分間。16時間の活動なら、実に1・6時間も無意識に目を閉じているのだ▼何のためか。生命機能学者の中野珠実さんの実験によると、同じ映画をみた人は、役者の一動作が終わった場面でほぼ一斉にまばたきをした。外からの情報に脳がまばたきで切れ目を入れて、まとまりを作って取り込んでいる証拠という(生命誌ジャーナル・秋号)▼大みそかの本日なれば、1年にして24日間に及ぶ「まばたき時間」で脳に刻んだ記憶から、ふれあった人々を思い浮かべるのもいい▼今年亡くなった吉野弘さんに珠玉の詩がある。<生命は自分自身だけで完結できないようにつくられているらしい/その中に欠如を抱き それを他者から満たしてもらうのだ>▼未完成な自分を、どんな人や言葉が埋めてくれたろうか。ほほ笑みとともに出てくる顔があれば、消したいのに消えぬ面立ちもあろう。それとて1度の人生でつながった縁と思えば、何かの意味を見いだせるかもしれない▼さて、頭の中の大そうじが済んだなら、日付が変わる前にはぐっと目を閉じて、この年に区切りをつけよう。大きなまばたきを終えれば、新しい1年である。

[京都新聞 2014年12月31日掲載]

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