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梅棹サロン

 タイル張りの玄関土間には、大きく十字の亀裂が走る。かつて2階の書斎に積み上げられた本の重みのせいという。床板には資料整理に使われたキャビネットの跡。建物のあちこちに「知の歴史」が残る▼京都市左京区北白川にオープンしたギャラリー「ロンドクレアント」。エスペラント語で「創造者の集まり」を意味する。民族学者・故梅棹忠夫さんの旧邸を遺族が改装した▼京都大にも遠くない住宅街は戦前から多くの知識人が住まった。学生と教授の関係も近く、自宅に押しかけて議論したという。1960年代、梅棹さん宅にも学生や若い研究者が集って考古学に数学、生物学など幅広く語り合い、新たな学問の芽が育まれた▼家は知識を獲得するための基本的技術を工夫し実践する場でもあった。隣家との塀沿いに回廊を巡らし、壁面を書庫に。無駄な空間を嫌い、大工道具と雑誌「暮しの手帖」を手に改築を模索したという逸話もある▼ベストセラー「知的生産の技術」はここで編まれた。「いちばんかんじんな点」を「いろいろとかんがえてみること」と「それを実行してみること」と同書で説く、碩学(せきがく)の原点を体感する▼人と人の出会いは刺激を生む。「ジャンルや世代を超えて人が集い、面白いものを生み出す場に」というのが遺族の願いだ。

[京都新聞 2015年09月15日掲載]

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