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あいさつ

 来年250年の遠忌を迎える名僧、白隠慧鶴(えかく)には秘法の逸話がある。駿河を中心に活動し、臨済宗中興の祖とされるが、その舞台は京都だ▼白隠は青年時代、座禅に行き詰まり、心身を病んでしまう。そこで、白川山中(瓜生山)に住む仙人を訪ね「内観の法」を授かる。一種のイメージトレーニングで、気を下腹部にあつめ活性化させる養生法という。この秘法によって健康を回復し、後に膨大な数の書画や著作を残した▼心身の不調と言えば、こちらも気になる。新年度が始まって1カ月、新入生や新社会人に疲れが出るころだろう。大型連休が明ければ「五月病」の声も聞く。この病に効く秘法はないが、積極的にあいさつ、会話をすることも重要とか▼「挨拶(あいさつ)」は禅にちなむ言葉である。「挨」は押す、「拶」は迫ること。師僧が弟子に悟りの深浅を試す問答に由来する▼作家で僧侶の玄侑宗久さんは禅語の挨拶から類推し、「今日(こんにち)は」には祈りが込められているとみる。昨日までのあり方でなく「新たな一日であること。白紙から始めましょうよ。生まれ直しましょうよ。力強いそんな呼びかけに思える」(「さすらいの仏教語」)▼長い夜も必ず明け、新しい日をともに迎える。一日一日成長する。いのち芽吹く新緑の時節。あいさつが大切に感じる。

[京都新聞 2016年05月05日掲載]

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