凡語 京都新聞トップへ

秩父の白狼、金子兜太さん

 98歳で亡くなった俳人、金子兜太(とうた)さんは埼玉県・秩父の人だ。<沢蟹(がに)・毛蟹喰(く)い暗らみ立つ困民史>。明治の自由民権運動の激化で、秩父の農民たちが困民党を組織、武装蜂起した秩父事件を想起させる▼詩人の正津勉さんは<語り継ぐ白狼(はくろう)のことわれら老いて>の句に大胆な解釈をしている。明治まで秩父に多く生息し伝説にもなっているオオカミが困民党を導いた-そんな語り継ぎを仮想したうえで、「白狼」とは金子さん自身ではないか、と▼戦後俳句をけん引した「白狼」。金子さんは書いている。秩父という「産土(うぶすな)」を思うとき、必ずオオカミが現れる。命の原始さながらにじっと土に静かに立つ(「日本行脚俳句旅」)▼戦争体験が俳句の原点だが、そこにはイデオロギーではなく、野性的な魂の発露を感じる。戦場で餓死を生々しく見つめた目だ。晩年に安保法制に反対したのも、太い根っこがあってこそだろう▼根っこといえば、五七調定型は日本語の「土」と体感している。日銀職員として神戸支店に赴任し、関西前衛の俳人らと熱い議論を交わす中でのこと。俳句専念を決意した頃だ▼夫人と死別後の一句がある。<合歓(ねむ)の花君と別れてうろつくよ>。トンネルを抜け、滋賀に出た時に見えた合歓の花。愛あふれる白狼、足跡を残し旅立った。

[京都新聞 2018年02月23日掲載]

バックナンバー


凡語 書き写し
 
著作権は京都新聞社に帰属します。
ネットワーク上の著作権について(日本新聞協会)