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「特A」米

 戦後の米飯蔑視について、食通だった小説家の獅子文六が随筆「米の味」で触れている。「コメを食べると頭が悪くなる」といった学説がまことしやかに流され、米飯が野蛮であるかのような風潮が主に都会人、知識人の間に起こった、と▼さすがに今ではそんな暴論は聞かないが、食の多様化に伴う消費の減少はいかんともし難い。国内の需要量は1963年の1341万トンをピークに減り続け、今や770万トン近くにまで落ちこんでいる▼対照的に生き残りをかけて近年続々登場しているのがコシヒカリに負けない味の新品種だ。各産地で開発が進み、日本穀物検定協会の2015年産米食味ランキングでは、コシヒカリを含む139の産地別品種のうち実に33%が最高位の「特A」に選ばれた▼最近は特に西日本の健闘が目立つ。滋賀県が開発した「みずかがみ」と「秋の詩」も広く栽培されているコメとしては初めて特Aの仲間入りをした▼とりわけみずかがみは暑さに強く、地球温暖化に対応する有望品種として期待が高い。夏の高温で1等米比率が低下した近江米全体の品質は、みずかがみの普及で大きく改善したそうだ▼稲作の行方は食文化だけでなく日本の風土や環境の保全とも深くかかわる。味の競争がコメの良さの再発見につながればと思う。

[京都新聞 2016年07月29日掲載]

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