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(8)マイスター制度

欠かせぬ厳しい実務修業 佐野惠子
街で見かけたWaltz。彼らは荷物を日本の風呂敷のように包んで持ち運ぶ文化を持つが、ヨーロッパでは珍しい光景だ(筆者撮影)

 ドイツは京都と同じく、職人の技術が高い国だ。伝統的な木工品から、ベンツのような車まで幅広く製造している。このような職人を支えてきたのが「マイスター制度」だ。

 マイスターと聞いて、私がすぐに連想するのは、ハムである。お歳暮シーズンなどにはデパートで「マイスター直伝の味」などと書かれた化粧箱入りのハムを目にする。この言葉だけで、何か特別な美味(おい)しさを視覚で感じる人も多いだろう。

 それはさておき、マイスターを辞書で引くと「巨匠、名人、親方」などとなるが、一言でいえばその道に精通した熟練者を示す。実はハムだけでなく、多業種のマイスターがドイツには存在する。

 では、どうしたらドイツでマイスターになることができるか、ご存じだろうか?

 マイスター制度の起源は13世紀までさかのぼる。時代とともに変化があるが、1953年に法制化される。さらに69年には職業教育法が定まり、今では学業制度と大きく関係するのである。

 ドイツでは日本の教育システムと大きく違い、早い子では小学校卒業時には自分の将来を決める。実業学校や商業学校、中学校、高等教育学校のギムナジウム(中等教育機関)に分かれ、この中から将来を選択しなければならないのだ。

 その後、職業専門学校に入学した者は、さらに専門教育を深め、実務修業を必須で行う。実務修業は国が指定した職場で就労しなければならない規則があり、その結果、卒業時には経験を積んだ人材になっているわけだ。

 現在は昔のようなマイスター制度は廃止されているが、このようなシステムで手工業マイスターは存在する。煙突掃除や電機工事士など昔ながらの制度が残るものは、危険が伴うため、必ずマイスターの資格がないと開業もできない。

 職種によるが、放浪修業の「Waltz(バルツ)」というのがある。期間は大抵「3年11日」とされているが、日本の「石の上にも三年」と似ている。期間中は故郷の半径50キロ以内に入ってはならないという約束がある。帰れるのは親の葬式の日のみ。彼らは特徴ある姿をしており、私も先日、偶然見かけることができた。

 黒ずくめに白いシャツ、大きな帽子をかぶり、杖(つえ)を持っているので、すぐWaltzだとわかる。聞くところによると、ジャケットに六つのボタン、ベストに八つのボタンが付いているそうだ。これは「週6日、一日8時間働く」という意味だそう。彼らはわずかな手荷物のみで、移動はヒッチハイクしか許されないという。(京都センター主宰)

【2011年1月17日掲載】