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(1)地酒

多様な個性で酔わせたい
酒蔵の歩みを客に語る岡村さん(左端)。コメ、水、人に恵まれた近江ならではの多種多様な地酒がそろう=京都市東山区・遊亀祇園店
 「藩主の井伊直弼(なおすけ)さんに命じられ、彦根城の別称をいただいた『金亀(きんかめ)』の銘柄で酒造りを始めまして…」

 創業157年を誇る岡村本家(滋賀県豊郷町)が、京都市の祇園にオープンした直営の飲食店「遊亀」。6代目の岡村博之さん(41)が地酒の魅力を客に語りかけた。

 狙いは、消費者の志向を探り、酒造りや販売に反映させること。「湖国には味わい深い酒が多い。お客さんとじかに触れ合って人の縁と輪を広げることで、地酒ファンを増やしたい」。飲食店3店のほか、年間2万人の見学者を集める酒蔵でも、幕末に始まる酒蔵の歴史を伝えている。

 近江には大地が育むコメ、山からの豊かな伏流水、醸造技術を受け継ぐ蔵元がそろう。今冬、県内では清酒の二大産地、灘や伏見より多い33の蔵元が清酒を醸している。

 国税庁で酒類指導を長く担当した県酒造組合顧問の小幡孝之(おばたたかじ)さん(71)=大津市=は「質の高さは全国指折りで、灘の男酒、伏見の女酒のように一言で言えない多様さが魅力。若い世代の蔵元が多く、個性を反映した酒が多い」と話す。

 魅力的な地酒がそろう一方、地元では「酒どころ」として浸透していない一面もある。県内の日本酒消費量のうち、県内産が占める割合は3割程度と推測される。地元でのさらなる普及は長年の願いで、県酒造組合は5割確保を掲げる。

 新しい試みとして、「権座(ごんざ)」という名前の酒造りが進む。西の湖(近江八幡市)に浮かぶ権座で育てた県固有の酒米「渡船」を原材料に、県内の障害者が西の湖産のヨシ紙でつくるラベルを張った「オール近江の酒」だ。水郷保護への思いを共有し、売り上げの一部は権座を守る地元団体に寄付される。

 酒造りを担う喜多酒造(東近江市)の蔵元、喜多良道さん(57)は「環境、農業、福祉と多分野の人が関わってできた新しい地酒だ。地域の志や物語を内包した商品こそ、消費者に魅力を強く打ち出せる」という。3年目の今冬、醸造量は初年度から倍増した。

 1月中旬。岡村本家の酒蔵で、100本の酒瓶に英字ラベルが張り付けられた。オーストラリアに空輸され、現地の高級レストランに並ぶ予定だ。近江の地酒としての新境地に挑む。

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 悠久の歴史と豊かな自然に恵まれる近江は、まだまだ知られていない魅力を数多く秘めている。年間連載「ほんまの近江」は滋賀の隠れた実力に迫り、第1部では地酒や近江牛など「食」をキーワードに記者が現場を歩く。=5回掲載の予定です

蔵元33社 純米や吟醸中心

 近江の地酒 自社で酒を造る蔵元は県内に33社あり、伏見(京都市)は18社、灘(神戸市)21社。国税庁の調査では、2009年度の滋賀の出荷数量は都道府県別で37番目の2244キロリットル。小規模の蔵元が多く、低価格の普通酒より、純米酒や吟醸酒など高品質の酒造りに力を注ぐ。

【2011年1月25日掲載】