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(3)近江牛

世界に挑め 元祖の誇り
霜降りが美しい近江牛。専門店「近江牛 毛利志満」には、東京から近江八幡に帰省すると必ず訪れる人もいる(近江八幡市東川町)
 名店「近江牛(うし) 毛利志満(もりしま)」(近江八幡市)でステーキを注文する。霜降りが新雪のように輝き、赤身との対比が美しい。シェフの手で焼かれると、香ばしい湯気が立ち上った。「滋賀に生まれて良かった」。隣の常連客がつぶやいた。

 近江牛とは、「県内で最も長く肥育された黒毛和牛」のこと。農家が長年蓄積したノウハウを生かし、うま味のある牛に育て上げる。松阪牛、神戸ビーフと並ぶ「日本の三大和牛」で、全国の競り値を比べても近江牛は松阪牛に次いで高い。

 最高級ブランドとして君臨してきたものの、近江牛生産・流通推進協議会の向井隆事務局長(66)は「油断はできない」とくぎを刺す。今、国内のブランド牛は200を超える。1991年の輸入牛肉自由化以後、産地の生き残り競争はヒートアップしている。

 最有力のライバルは米沢牛だ。近年、首都圏では、「三大和牛」に近江牛ではなく米沢牛を挙げる人が増えているという。年間生産も3000頭に増産する計画で、5000頭の近江牛に迫りつつある。

 2009年10月。滋賀の食肉業者たちが歯ぎしりする出来事があった。NHK大河ドラマの主役交代のイベントで、俳優の妻夫木聡さんが福山雅治さんに米沢牛をプレゼントする場面が全国放送された。滋賀の業者も黙ってはいない。昨年はNHKに近江牛を贈り届け、今作「江(ごう)」の上野樹里さんから福山さんに肉を渡してもらう様子が電波に乗った。

 近江牛生産・流通推進協議会は、雄琴温泉など県内観光地とタイアップした近江牛ツアーなどPR活動に力を注ぐ。近江牛、近江米、近江の茶の3点セットで売り出す計画もあり、向井事務局長は「味は日本一。PR合戦でもよそには負けられない」と意気込む。

 江戸時代、皮革の副産物だった牛肉を、彦根藩だけが「薬」として幕府に献上した。1869(明治2)年には横浜に出荷され、神戸ビーフや松阪牛よりもブランドとしての歴史は古い。滋賀の業者たちの情熱を支えているのは、「近江牛は和牛の元祖」という誇りだ。

 県の第三セクター「滋賀食肉市場」(近江八幡市)は新年度、シンガポールに近江牛200頭を輸出し、香港や米国への出荷も視野に入れる。世界の舞台へ、いざ近江牛−。

「伝説」空から生肉の贈り物

 近江牛の宣伝 1950年代に近江肉牛協会が東京で繰り広げた「大宣伝会」は今も語り継がれる。国会議事堂で生きた近江牛を披露したり、デパート屋上で競りを市民に公開した。ヘリコプターから落下傘を付けた生肉をばらまいてプレゼントする派手なパフォーマンスも行い、人々を驚かせた。

【2011年1月27日掲載】