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(4)伝統野菜

守った種で新たな魅力
新しい魅力を引き出される伝統野菜。中央手前から時計回りに、秦荘のやまいも、北之庄菜、伊吹大根、赤丸かぶ、山田ねずみ大根、日野菜(大津市雄琴町・里湯昔話 雄山荘)
 ずんぐりとした「山田ねずみ大根」、紅色が鮮やかな「赤丸かぶ」。「秦荘のやまいも」は自然薯(じねんじょ)より粘りがあり、「日野菜」は原種ならではの渋味がある。

 京都に京野菜があるように、滋賀には「近江の伝統野菜」がある。県内原産で、明治時代以前から栽培されてきた個性豊かな野菜を指す。2年前、14種を認定した県農産ブランド推進室は「滋賀の食文化の奥深さを伝えたい」(濱中正人副主幹)と狙いを話す。

 今でこそ県がPRに力を注いでいるが、多くの品種はかつて絶滅の危機にひんしていた。漬物用としての需要が大きく減り、高齢化も相まって作り手が激減したのだ。

 全国的に有名な「日野菜」も例外ではなかった。種苗会社が種を売る交雑種と異なり、原種は日野町内だけで作られてきた。だが6年前、種の供給を支えてきた最後の人が亡くなり、生産者も12軒に減った。ピンチに立たされたことで農家は団結し、曽羽松司さん(71)=日野町深山口=は「先祖伝来の原種を守ろうという気持ちが、自然とわき起こった」と振り返る。

 農家が一歩を踏み出し、種取り用の日野菜を作る組合を結成。町商工会が販路拡大への突破口を開けた。有名シェフの協力を得て、パスタメニューやドレッシングなど漬物以外の使い方を開発。町役場とJAグリーン近江は一流レストランに日野菜を持参し、中華、フランス料理に新風を吹き込む素材として売り込んだ。

 売れ行きが伸びると農家の意識も変わった。朝収穫した素材をその日に出荷し、料理に使いやすいミニサイズもそろえた。2008年に4店舗だった販路が今では県内外の28店にまで増え、「東京の人がうまいと言う。作り続けたい」と手ごたえを感じている。

 伝統を守る農家の努力に、固定観念にとらわれない発想で応えようという模索もある。雄琴温泉の旅館「里湯昔話 雄山荘」(大津市)では10種類の伝統野菜を使う。伊吹大根など根菜4種のポトフ、水口かんぴょうを使った菓子など、森順一総料理長(46)が知恵を絞ったメニューが自慢だ。「お客様は“ここだけのもの”を求めている。伝統野菜はうってつけ」と将来性に期待する。

 伝統野菜を全国ブランドに−。農家と料理人の思いが重なって、新しい魅力を生み出していく。

多様な14種 出荷量はわずか

 近江の伝統野菜 山田ねずみ大根(草津市)、下田なす(湖南市)、杉谷なすび・杉谷とうがらし・水口かんぴょう・鮎河菜(甲賀市)、日野菜(日野町)、北之庄菜・豊浦ねぎ(近江八幡市)、小泉紅かぶら(彦根市)、秦荘のやまいも(愛荘町)、赤丸かぶ・伊吹大根(米原市)、万木かぶ(高島市)の14種。出荷量は合計でも116トン(2008年調査)、県内野菜全体のわずか0・4%。

【2011年1月28日掲載】