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(1)文化財

埋もれた宝に光差す
山王曼荼羅(左側の掛け軸)やみこしの模型を飾る民家で住民から話しを聞く「坂本の歴史を語る会」のメンバー=大津市坂本5丁目

 湖国三大祭「山王祭」午(うま)の神事が行われた4月12日の昼。祭りの空気に満ちる大津市坂本の町並みを、約50人の観光客が訪ね歩いた。大津市歴史博物館と坂本の歴史を語る会が主催した講座「山王曼荼羅(まんだら)めぐり」だ。

 延暦寺を守護する日吉大社の神々を描いた曼荼羅は、1868(明治元)年の神仏分離以前に描かれた。坂本の歴史ある民家に掛け軸として伝わり、今も祭りの時期だけ床の間に飾る風習が残る。

 広く世間には知られていなかったが、大津市歴博が2006年に催した企画展「天台を護る神々」をきっかけに注目を集めた。語る会の山口幸次さん(65)が「地元の者は珍しいと思っていなかった」と振り返るように、知る人ぞ知る地域の宝だった。

 滋賀県の重要文化財は計807件。都道府県で4番目と数は多いが、京都や奈良のように観光の対象としての知名度は高くない。いまだに謎が多く、知られていない貴重な文化財も多い。

 人の目に触れる機会が少なかったからこそ、現代まで残ってきたとの見方もある。大津市歴博の樋爪修館長(58)は「交通の要衝である近江には、各地の文化が集積した。生活や風習、信仰の中で、文化財を『知らぬ間に』伝えてきた」と指摘する。

 戦乱の地でもあった近江。天台宗の寺院ながら織田信長の焼き打ちを免れた大津市比叡辻の聖衆来迎寺は、多くの文化財が伝わることから「近江の正倉院」とも例えられる。

 その中に、国宝の「六道(ろくどう)絵」がある。閻魔(えんま)王の裁きで、地獄や天道など新たな死後の世界を描いた、鎌倉時代のリアルな絵だ。

 複製が毎年8月16日に本堂で虫干しされ、信仰の対象として毎年300人ほどが拝観してきた。ところが昨年秋、大津市歴博の開館20周年記念企画展「大津 国宝への旅」に出品。切り刻まれたり、焼かれたり…見るからに痛そうな地獄絵の迫力に、多くの入場者が引きつけられた。

 山中忍恭住職(72)は「正しい行いを求める信仰の中でこそ六道絵は生まれ、伝わってきた」と強調する。博物館で美術作品として見る来場者が、絵が表す意味や信仰について考える機会になればと思いをはせる。

 人々の暮らしに根差し、ひそかに育まれてきた特性も色濃い滋賀の文化財。現代の調査や展示によって新たな光を浴び、知られざる魅力が引き出されている。

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 年間連載「ほんまの近江」第2部は観光、観賞など「観」をキーワードに文化ホール、ロケ地などの県内の現状を探る。=5回掲載の予定です

重文の数、全国4位

 湖国の文化財 文化庁によると、県内の重要文化財807件(国宝55件を含む)は東京都、京都府、奈良県に次いで4番目。仏像など彫刻が376件あり比率が高い。「まだまだ未指定の物が多い」(樋爪修大津市歴史博物館長)との見方もあり、これから増加する可能性もある。

【2011年5月21日掲載】