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(4)ロケ地

レンズ通し輝き再発見
ドラマの撮影下見をする制作会社のスタッフら。本物の景観を生かそうと、プロの知恵を絞る(近江八幡市・八幡堀)

 幕末の醤油(しょうゆ)商のたたずまいが残る近江八幡市・八幡堀の民家。「雰囲気、時代がぴったり合うね」。4月下旬、TBS系ドラマ「上条麗子の事件推理」のロケ地探しで同市を訪れた制作会社TSPのスタッフが、感嘆の声を上げた。

 探し当てた民家は「創業150年の近江牛のみそ漬け屋」として、ドラマに登場する。セットではなく本物にこだわった理由を、神戸將光プロデューサーは「生活に密着した古い物に近江商人の魂がこもっている。俳優の演技が絡むと一層輝く」と話す。

 ロケ地を探し、案内するのは、滋賀県と県内市町が2002年に設立した「滋賀ロケーションオフィス」(大津市)。琵琶湖などの自然景観や古い町並みが多く残る滋賀は近年、映画などの撮影地として注目される。

 なぜ自治体がロケの誘致に取り組むのか?油木清明事務局長(62)は「観光振興と地域の活性化」と答えた上で、「住民の笑顔を生み出す清涼剤になる。地域の誇りを引き出せる」と説明する。

 八幡堀は約40年前、埋め立ての危機に直面し、保全と美化を求める市民運動が起きた。「重要伝統的建造物群保存地区」(1991年)の選定にもつながった。

 近江八幡市には年間約250万人の観光客が訪れ、町並みのそぞろ歩きを楽しむ。近江八幡観光物産協会の森嶋篤雄会長(62)は「無いものを造るのでなく、有るものを映像化することで彩りが加わる。町並み、水辺の美しさを引き出すプロの力が生きる」。満足度の高い周遊型観光につながっている好循環を強調する。

 一方、突然の撮影依頼が地域の熱意に火を付けたケースもある。雄琴の温泉街を望む約百戸の農業集落・大津市千野。昨秋、映画「のぼうの城」ロケが行われた。

 田植えの場面が撮影されたが、時期は10月。千野営農組合長の奥村克博さん(60)は当初、収穫を終えたばかりの田に水を張るのを渋った。だが「隠れ里のような田に何か魅力があるから撮影される。意味があることでは」と考え直した。

 手作業であぜを設けて戦国時代の田を再現し、撮影スタッフに農作業を教えた。ロケは2日間。見学に来た集落の住民は俳優たちとの交流を楽しんだ。

 地域の輝きを、住民とは違う視点から切り取るロケ。見過ごされがちな魅力を再発見するきっかけにもなっている。

9年間で撮影555件

 滋賀県内でのロケ 滋賀ロケーションオフィスが発足した2002年度から9年間で、映画やドラマ、テレビ番組、コマーシャルで計555件のロケが行われた。出演のエキストラに登録している県民は約2800人にのぼる。

【2011年5月24日掲載】