京都新聞TOP > 文化・文芸・教育アーカイブ >みやこ図会めぐり
インデックス

みやこ図会めぐり

(10)江戸時代の正月 豪華な注連飾り、中央に伊勢海老
「元三、市街の図」

 いつの世にあっても、あらたまの年をこころ静かに迎えることは諸人の願いです。江戸時代の人びともまた、決済日である大晦日(みそか)をそれぞれの知恵や才覚でなんとかやりすごし、新春のひとときを楽しんだはず。『諸国図会年中行事大成』に載る冒頭の挿絵は、長閑(のどか)な三が日のようすを描いています。
 絵の左にみえる商家の戸口には一対の門松。元旦より十五日まで家々の門に飾られていました。現在の門松にくらべるとやや質素に感じられるかもしれません。そのかわり、注連(しめ)飾りはたいへん豪華です。竹二本を横にして飾り藁(わら)を結わえつけ、昆布、炭、橙(だいだい)、蜜柑(みかん)、柑子、柚橘、穂俵、海老、串柿、譲葉、穂長を飾りつける。特に重要なのが、注連飾りの中央にみえる海老。絵からもわかるように、伊勢海老と決められていました。
 井原西鶴の浮世草子に『世間胸算用』があります。そのなかの「伊勢海老は春の☆(もみじ)」は、伊勢海老が高騰し、買いそびれた息子と、安い時期に買い置きしていた母親の問答をえがいています。なぜ、伊勢海老が高騰したのか。それは、年内に立春がやってくる年だったから。旧暦の時代、正月の頃(ころ)に立春を迎え、その前日が節分となる。そして、正月よりも前に立春のある年は、伊勢神宮を筆頭に、伊勢の家々が立春の祝い飾りとして伊勢海老を買い占めてしまう。正月を目前にして伊勢海老が品薄となり、値が上がるというわけ。世の中のうごきに注意をはらいつつ、「胸算用油断なく」すごさなければいけないと西鶴は教訓しているのです。
 絵にもどって、商家の戸口は年初の挨拶(あいさつ)にやってきたひとで賑(にぎ)わっているのがみえます。それぞれが裃(かみしも)姿で、脇差を一本差し、扇子を手にしています。新年最初の対面ですから、カジュアルなスタイルは失礼。みな正装ででかけたのです。連れている子たちは、跡取りの長男さん。このようにお供をしながら礼儀をおぼえ、また、先方に顔をおぼえてもらったのでしょう。
 一方、絵の右側には娘たち。羽子板で羽根を何回打ちあげることができるかを競っています。年頃の娘さんは振袖のさばきかたも慣れたもので、上手に羽子板をあやつります。右下でしゃがむのは、振袖を着慣れない少女。袖が汚れるのもかまわず、羽根を拾っているのがほほえましい。

※☆の字は木偏に「色」
【2009年12月14日掲載】