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(1)長良川鉄道(岐阜県)=72・1キロ

せせらぎと紅葉の郡上八幡
長良川鉄道の終端駅・北濃駅で折り返し待ちをする列車(岐阜県郡上市、筆者撮影)

 岐阜県西北部、郡上市の北辺に長良川鉄道の終端、北濃駅が佇(たたず)む。裏に山が迫り、正面は国道を挟んで長良川の上流。広い河原にひと抱え以上もある石が一面に転がる。辺りに民家はあるが、人影も見えない昼下がりであった。

 紅葉を追って明知鉄道に乗った後、長良川鉄道に足を伸ばした。JR高山本線の美濃太田から北濃まで、72・1キロを走る盲腸線(行き止まり線)である。

 国鉄時代は越美南線(なんせん)で、第三セクターになった今も車内の路線図にはその名を示し、運転士も「南線」と呼ぶ。一方、福井からは、JRに残った越美北線(ほくせん)が九頭竜湖に向かう。「越美」は越前と美濃の頭字だ。両線の終端駅間はわずか15キロだが、県境の急峻(きゅうしゅん)な峰を越えて結ぶ計画は、国鉄解体で夢と消えた。

 美濃太田から下校中の高校生の集団に囲まれてレールバスに乗った。すでに日は西に傾いており、1時間半ばかり走った郡上八幡の町で宿をとった。

 かつての上司がこの町の出身者で、酒の席で盆踊り唄「郡上節」を聞かせてくれたことがある。三味線の伴奏が入るとにぎやかなのだろうが、どこか寂しい節回しに心惹(ひ)かれ、以来訪ねてみたい地の一つになった。

 しかし、この日は時季はずれで、日暮れて間もないというのに、駅前は暗闇に包まれ、深夜と見まがう。

 一夜明けて、せせらぎの音が聞こえる静かな城下を歩き、八幡城の紅葉を愛でながら晩秋のひとときを過ごした。城では、茶店の主人が「八幡の町は上から見ると鮎(あゆ)の形をしてるんですよ」と教えてくれた。

 昼前の便で郡上八幡駅を発(た)ち、長良川に沿って狭い谷あいを北上した。両側は飛騨山地と両白(りょうはく)山地、千数百メートルの山々が視界をさえぎる。車内は前日とうってかわって、半端な時間帯なのか年配の乗客が数人で、乗降はぽつぽつとある程度だ。

 北濃までは40分を要した。列車の折り返しまで小一時間ある。駅舎は古びて、券売機もなく無人だ。「長良川鉄道終点」の文字が剥(は)げかかったホーム外れの看板、草生(くさむ)した車止め付近に放置された車両、列車の入らない2番線レールの錆(さび)、使われなくなって久しい転車台…。涙が出そうな風景の中にしばし身を置く。

 鉄路の先は行き止まり。そんな「盲腸線」の乗車を重ねる元公務員の村上義晃さん(67)が、旅先の魅力や印象をつづります。

 次回は12月28日に掲載予定です。

長良川鉄道

村上義晃さん

むらかみ・よしあき 1942年舞鶴市生まれ。2001年に京都府職員を退職。著書に「新・盲腸線紀行」(牧歌舎)「盲腸線−行き止まり駅−の旅」(明治書院)など。宇治市在住。

【2009年11月30日掲載】