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(1)言葉の力 言語学者 東照二さん

修業不足 心に響く弁舌を
あずま・しょうじ 立命館大教授、米ユタ大教授。1956年石川県生まれ。早稲田大卒。専門は社会言語学。著書に「オバマの言語感覚」「言語学者が政治家を丸裸にする」など。ユタ州ではスキーインストラクターも務める。

 古今東西、政治は言葉で動いてきた。時代を切り開く演説、当意即妙の受け答え、危機を好機に変える記者会見。でも今の日本の政治家の大半は明らかに言葉の修業不足です。

 例えば、聞き手(国民)中心でなく、自分中心か同僚議員に向けて言葉を発している人がほとんど。だから「民主主義の危機」「政権交代の意義」という抽象的な言葉が多い。それでは学者やマスコミには通じても、国民の心には届きません。

 オバマ米大統領の演説がなぜあれほど日本人を引きつけたのか。言葉は単に情報やメッセージを運ぶのではない。話し手の人柄や価値観、感情の起伏という情緒的なものまで伝える。「言葉の大切さは分かっている」と言う政治家もいるかもしれないが、どこまで本当でしょうか。

討論より対話

 近ごろ日本ではディベート(討論)力が重視されるが、私は賛同しません。大切なのはダイアローグ(対話)です。実はオバマ氏のスタイルはとても日本的で、相手を打ち負かすのでなく、話に耳を傾け、仲間意識を高めながら、目標に前進する。力による限界を認め、調和を大切にする。主語は“We”をよく使う。反対に麻生首相は「私は逃げない」などと“私”の多用で独善的な印象を強めた。言葉が思想を表す典型例ですが、危機に際して日米指導者の話しぶりが逆転するのは皮肉な現象です。

 政治家の言葉に対し「どうせ口だけ」と不信が根強いのは、アメリカも同じ。大統領選予備選でクリントン候補がオバマ氏を指して「彼は言葉だけで実績がない」と批判したのも、そんな背景があった。でも、その不信を乗り越え、覆すのも言葉の強さ。オバマ氏が支持されたのは、“Yes we can”など短いフレーズだけでなく、個人的な物語や信条が具体的に語られたから。それに、周到に練り上げられた演説に限らず、即興のやりとりで感じられる冷静さや誠実さが信頼性を補強したのです。

 日本も経済が右肩上がりのころなら、利益分配型の政治の中で、根回しなどの力がより重要だった。しかし、国民に負担増を求める現代は、将来展望を言葉で示して理解を訴えるしかない。

反応を分析

 どうすべきか。まず言葉の力を理解し、専門的なアドバイザーをつける。街頭演説もやりっ放しでなく、聴衆の反応を含めて記録、分析する。テレビのイメージCMに多額の資金をつぎ込むより、よほど有権者とのコミュニケーション向上には役立つはずです。

 司馬遼太郎は「竜馬がゆく」で、事をなすのは弁舌や才智ではなく人間の魅力だ、と言わせた。一方、弁舌巧みな政治家というと、大衆を扇動したヒトラーを連想して危険視する人もいる。でも、オバマ氏やケネディ元大統領の言葉に危険を感じたでしょうか。

 弁舌が悪ではなく、行動が悪なのです。小泉元首相の雄弁を空虚だと批判するのは容易だが、対抗するメッセージを出せなかった側の責任も大きい。否定形だけでは人は動かない。政治家なら、時代に応じた言葉の力を身に付けるべきです。

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 私たちが政治家に求めるものは何だろう。人柄や手腕、知性、それに外見や弁舌、愛嬌(あいきょう)も? 社会を映す存在でもある政治家には今どんな資質が望まれ、なぜ必要とされるのか。来るべき衆院選に向け、いろんな分野の専門家に「政治家論」を尋ねてみた。

私が望む3つの資質

◆情報トークと情緒トーク
◆聞き手中心の言葉
◆「力」より「共感」

【2009.05.22掲載】