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(3)声なき声 反貧困ネットワーク事務局長 湯浅誠さん

駆け引き超え 問題意識持て
ゆあさ・まこと NPO法人自立生活サポートセンター・もやい事務局長。1969年生まれ。東京大大学院法学政治学研究科博士課程単位取得退学。90年代から野宿者支援に携わり、昨年末〜年始の「年越し派遣村」で村長を務める。著書に「反貧困」「貧困襲来」など。

 民意と言っても多様で幅広く、民意のどこを切り取るかで全く違ってきます。恵まれた環境にある多くの政治家の耳に、「派遣切り」に遭い、生活保護申請に来る人たちの「声なき声」は聞こえてこないでしょう。

 ただ、政治家がすべての民の声を直接聞くことが必要とは思いません。わずか700人余りの国会議員で日本のすべての問題に通じるのは不可能です。大事なことは、自分が知らないことを自覚することです。

 私には、政治家の視線は航空写真で社会を見ているように映ります。住宅も道路も見えるのに、なんで野宿するのか、道を歩かないのか、きっと本人に歩く気がないんだと決めつけてしまう。年越し派遣村に集まった失業者に、坂本哲志総務政務官が「本当に働こうとしている人たちか」と言ったのは象徴的です。道路は穴だらけで歩けないことが見えていない。

「ない」ことにする

 せめて実際はどうなのかと、現場に詳しい人に聞けばいい。でもその姿勢は、航空写真しか見てないという自覚がないと生まれない。中には、貧困の実態を説明しても、わずかな知識や経験に寄りかかって「私が知る実情は違う」と言い張る政治家がいる。そんな人に限って、問題を社会的なものでなく、個人的な理由で考える。ワーキングプアも格差問題も数年前からあったのに、「ない」ことにされて政治的な対策が進まなかった。

 なぜなのか。政治の力学も関係があるのでしょう。事態は深刻なのに、「あの野党が言ってるから」「政局になるから」で済ませてしまう。WHAT(何が問題か)よりWHO(誰が言っているか)が幅をきかせている。その結果、取り組むべき問題がこぼれ落ちる。

 やはり、民意のくみ取り方に問題があるのだと思います。雇用や福祉の現場から問題点や苦情を吸い上げる力が、政治も行政も弱まっている。2年前に生活保護基準引き下げ問題でロビー活動した時は、国会議員、特に与党の人に会うのはとても難しかった。国の審議会も、官僚のプランにお墨付きを与えるのに利用されている。民意を反映する仕組みには程遠い。

 派遣村の時は、政治家の反応ががらっと変わりました。社会の関心が高まって、与野党を超えて政治がある程度動いた。でも、まだ本気でない。依然として、政治は貧困問題から逃げている。

 国連は2015年までに世界の貧困を半減すると目標を立てましたが、日本国内では、貧困対策の基礎となる実態調査さえしていない。真剣に取り組む気なら、官邸主導で対策組織を設けたり、期限付きの目標設定をして、省庁横断的に動くでしょう。財源問題を口実にするのは、優先度が低いから。景気対策では、数兆円もの「埋蔵金」が突然現れるのに、本当に財源がないのか信じられない。結局、私たちはナメられている。そんな状況では、政治に過大な期待はできません。

経済の論理で判断

 もちろん、政治家が動かなくていいという訳でない。困窮した人たちが私たちの生活相談に来なくてもいい社会を作るのは政治の役目です。そうするには、政治的駆け引きを超えて、貧困や格差は軽視できない問題だという意識レベルを少しずつでも上げること。2、3年前までワーキングプアというのは周知の存在ではなかった。派遣で働く人の生活が苦しいのは自己責任だと言われていたんです。

 政治家にも先見の明があり、弱者に目配りできる人はいる。ただ、彼らの声が政党や国会の意志となるには、世論の後押しが欠かせない。やはり主権は民にあるんです。

 政治は人間の問題を扱ってるのに、人の手触りを忘れて、経済の論理に飲み込まれてきた。努力しても結果が出ないことがあるのに、成果や効率だけを判断されている。「声なき声」の存在を、政治家に「大したことじゃない」と言わせないためには社会も変わらなければいけません。

私が望む3つの資質

◆人間の手触りを忘れない
◆無知の自覚
◆その人なりの努力の尊重

【20009.07.03掲載】