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(3)変化への対応力 神戸製鋼ラグビー部 ジェネラルマネジャー 平尾誠二さん

想定外に備え次への視野を
ひらお・せいじ 1963年京都市生まれ。同志社大大学院総合政策科学研究科修士課程修了。伏見工で全国大会優勝。同大学で大学選手権3連覇、神戸製鋼で日本選手権7連覇。ラグビー日本代表監督、日本ラグビー協会理事など歴任。著書に「人は誰もがリーダーである」など。

 リーダーはタイプの違う個人をまとめ、目標に向けて集団を率いるのが役目です。といっても、一人ができることは限られている。周囲の支えが欠かせない。すぐに結果が出なくても、自ら投げ出したり、次々交代させるのは得策ではない。リーダーを選ぶ側も、引き受ける側も覚悟がいる。

 リーダーシップに必要なのは、おれしかできない仕事だという自負と、このやり方が正しいという信念。ぶれてはいけない。周囲の意見を聞くことと、ぶれることは違う。助言に耳を傾け、状況を見極め、判断を下す。方針を出したら簡単に引っ込めるべきでない。

内発的な動機必要

 事細かなマニフェスト(政権公約)にとらわれるのもどうかと思う。目標を定めて取り組むのは大事だが、いくら想定しても物事はその通りに進まないのはラグビーの試合でも政治でも同じ。自然災害や経済危機など、事態の変化に合わせてチェンジできる準備が欠かせない。年金問題を見て思うのは、状況変化への対応力の弱さ。政治家こそ、リアクションの能力を磨いてほしい。

 そのためには戦略を確定させず、その時々で自由に動けるスペースを作っておくこと。合理的に振る舞うには、無駄を削るだけでなく、あいまいさを残すことが大切。すき間があれば、人は状況をよく観察して埋めようとする。それには常に次の視野を持ち、重要な情報をつかむ感覚を研ぎ澄まさないといけない。

 リーダーには知識も経験も勘もあった方がいいに決まってる。でもそんな万能タイプの登場を待つより、チームとして総合力を高めた方がいい。欠点はあっても特定分野に秀でた人をうまく組織すれば、問題解決にはプラス。そんな人材を選び、義務感でなく情熱で動くように仕向けるのがリーダーの仕事です。

 昔の自民党の派閥は結束が固かったが、外圧的だったようにも見えた。出世の見込みや損得勘定で動くのはモチベーションとして弱い。人柄にほれる、共通の夢がある、といった内発的な動機が実は強いんです。

受信感度を磨く

 最近は価値観に揺り戻しが起きている気がします。日本ではスポーツでも他の分野でも、昔は精神論や根性が「潜在力」を引き出すと信じられたが、1980年代か90年代から個別技能とかデータや理論重視の傾向が強まって、精神論や自己犠牲は軽視されるようになった。でも今は再び、共同作業が生みだす力も大切と感じる人が増えてきた。プライベートなことも大事だけど、一緒に何かした方が楽しく、充実感がある。その変化を、これからのリーダーは気付くべきでしょう。ただし、押しつけてはだめ。内発的なやる気を引き出すようにしないと。

 困難に挑戦する時、リーダーに必要なのは、説得力よりも洞察力。メッセージの発信技術だけ磨いても不十分で、まず自分の受信機の感度を高めて、人が何に興味があるか、何をしたいのかを知る。結局その方が相手によく伝わるんです。

 そして、矛盾を受け止める度量も大切。組織で何かを達成しようとすると、新たな悩みが必ず出てくる。優秀な人材を登用すれば、チームにあつれきが起こる。目標自体を考え直せ、との声も出る。でも進化の過程でマイナスは付きもの。悲観せず矛盾に向き合えば、例えば、目の前の試合にどう勝つかだけでなく、どうチームを運営すればラグビー界にとってもプラスか、という視野を持てるようになる。

 トップに立てば、当然結果が求められます。大抵それは当面の利益、一部の人の利益だったりするが、大切なのは、大局的な損得勘定です。一時的に仲間にしわ寄せを強いても、長い目で見てプラスかどうかをとらえる許容力といってもいい。

 政治の世界では、特に環境や福祉の問題はその視点が必要なはず。この判断で、日本や世界中に喜ぶ人がどれだけいるか、将来世代にどう評価されるか。そんな志を持つ政治家もいると思う。調子のいい、面白いことをいう人ばかり脚光を浴び、地道な仕事に日が当たらないのはわれわれにも責任があるかもしれません。

私が望む3つの資質

◆大局的な損得勘定
◆説得力より洞察力
◆ぶれない姿勢

【2009.07.31掲載】