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(1)危機克服の気構え 経済学者 佐和隆光さん

時代の変容 的確に見据えて
さわ・たかみつ 立命館大大学院政策科学研究科教授。1942年生まれ。東京大卒。京都大経済研究所所長、国立情報学研究所副所長など歴任。専門は計量経済学、エネルギー環境経済学。2006年紫綬褒章受章。「地球温暖化を防ぐ」「この国の未来へ」など著書多数。

 21世紀の最初の10年で世界は大きく変わった。2001年、米国で起きた同時多発テロ、アフガニスタン侵攻、イラク戦争、08年のリーマンショックに端を発する世界同時不況、気候変動の頻発。いずれも政治の在来型パラダイム(枠組み)の転換を迫るものだ。こうした歴史的岐路に立つ今、政治家には、時代文脈の変容を的確に見据えてもらいたい。

 今回の選挙は政権交代の可能性をはらんでいる。有権者は各党のマニフェストを比較し、どの党に政権を委ねれば、「賢い」政府が誕生するのかを見極めるべきだ。しかし、実際問題、判断を下すのは容易でない。

 なぜなら、時代文脈への適応を主導するはずの政治家の言説に、確固たる意志も理念も見透かせないからだ。

描かれない将来像

 自動車と石油がけん引してきた20世紀型文明は終焉(しゅうえん)を迎えつつある。新しい経済システムの構築が求められているのに、政権を競う自民党にも民主党にも、それを構想・構築していく気構えがみじんも感じられない。

 公約に掲げられる子ども手当や教育助成金、高速道路料金見直しなどの政策が、どういう思想信条に根差すのか、どんな将来像を描いてのことなのかが判然としない。思想信条に無頓着な、大衆迎合的政策と受け取られても仕方がない。

 経済政策に関しては、市場を万能視する新古典派と、市場の不完全性を前提とするケインズ派の対立軸があり、米国の政治家や経済学者はいずれにくみするのかを、双方の思想構造を含めて選択する。中曽根政権と小泉政権は、市場万能主義の立場を鮮明に打ち出し、日本ではまれにみる首尾一貫性を貫く政権だった。しかし他の政権はどれも思想信条とは無縁を決め込み、新古典派的政策とケインズ派的政策を、その場限りで使い分けてきた。今回も、政策の一貫性や整合性にこだわらない二大政党が、対立軸を鮮明にしないまま「歴史的選挙」に臨むというのでは、選挙民は選択のしようがない。

 今、私たちは、人類の生存を脅かす地球的規模での「危機」に直面している。気候変動、石油価格や食料価格の高騰、金融危機、世界同時不況、新型インフルエンザ…。こうした「危機」を克服する気構えと政策構想が、政権を争う二大政党にあるのだろうか。

 例えば、気候変動を緩和するために二酸化炭素排出削減に本気で取り組もうとすれば、国内の産業界の支持を得にくくなる。しかし、野心的な中長期の排出削減目標や再生可能エネルギーの積極的導入など、日本版グリーン・ニューディール政策を打ち出し、それこそが不況脱出の唯一の手だてだとの気概を示すことが選挙民の支持を勝ち得ることになるはずだ。

 深刻な不況や雇用不安を受け、与党の政治家までが小泉構造改革の行き過ぎと弱者救済を声高に叫ぶようになった。しかし、その先にどんな社会を目指すのかが見えてこない。

効率と公正の両立

 英国では、1997年の総選挙で保守党は労働党に大敗し、ブレア政権が誕生した。ブレア前首相は、サッチャー元首相の市場万能主義でもなく、旧来の労働党の社会民主主義とも違う「第三の道」改革に乗り出した。その狙いは「公正な福祉社会の創造」であった、「公正な社会」とは排除される者のいない社会を意味する。既存の福祉が、社会的弱者に生活費を給付するネガティブ福祉であるのに対し、職業訓練や高等教育を受けるための支援など人的投資の費用を給付するポジティブ福祉がブレアの言う福祉なのだ。

 このように効率と公正を両立させること。それこそが21世紀の政治家の目指すところであってほしい。

私が望む3つの資質

◆思想信条を明確に
◆政策の一貫性と整合性
◆グローバルな視野と責任

【2009.08.14掲載】