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坪倉由美の日々しましま

(12)オッチャンの教え
 普段はほとんど意識せずにいますが、ほんの小一時間電車に乗って大阪へ行くと「ああ、私は京都人や」と思います。仕事でも私用でもとりあえず大阪の中心地、梅田を拠点に動くので、余計にそう感じるのでしょうが、すべてにおいてスピードが早く、自然と速足で歩いています。
 駅周辺の小さな飲食店に入っても、店の人は元気が良く愛想もいいのですが、さっさとメニューを決めて、さっさと食べないといけない無言の抑圧を感じてしまうのは私だけでしょうか。半日ほどいただけでも、帰るころにはクタクタ。京都に帰り着くと身も心もほっこりします。
 大阪へ行くたび思い出す出来事があります。地下鉄の券売機前で、運賃を確かめるために運賃表を見上げること十秒足らず。後に並んだ知らないオッチャンから「とりあえず一区間分だけ買うて降りた駅で精算したらええがな」とイラついた声で御指南を受けました。
 そんなに待たせたつもりはないのに、ここはやっぱり大阪や〜! 正直カチンと来ましたが、背後からのすごみがヒシと伝わり、振り返ることもできず、言われた通りシブシブ一区間だけ切符を買い、その場を去りました。
 その時はしばらく憤慨していたのですが、時がたつに連れ、少しずつ考えが変わります。私ならどうやろう。前の人がモタモタしていても何も言わずその背中に不機嫌ビームを送り、その場を離れてもそれをしばし引きずるかもしれません。
 怒りながらも、速やかにことが運ぶ段取りまでちゃんと教えてくれたオッチャンは私よりずっと潔い人かも。勇気を持って振り返り、ご尊顔を仰いでおけばよかったと悔やみさえするこのごろです。
【2008年1月31日掲載】