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みんぱくに出会った千家十職

(6)釜師 十六代大西清右衛門さん(48)
目に見えない力も意識して、「何ができるのか、自分の中で楽しむことを大事にしてみた」と妊婦像の制作に工夫を凝らす大西さん
 「民族資料はどれを見ても根本に『生と死』がある。そこに力強さも感じる。私らはいつもお茶の道具を考えるが、もっとストレートに作らしてもらってもいいのでは」
 ものに向き合ったとき、目に見えない力を感じることがあるという。例えば古い釜二つ。同じように古色を装っていても、並べたとき、おのずと力を感じるものがある。
 国立民族学博物館(大阪府吹田市)でバヌアツの死霊像を見たとき、魂を感じた。強い威圧感にたじろいだ。腹部が大きくせり出したナイジェリアの妊婦像には、胎内に宿るエネルギーと神秘を。「現代社会でどんどん退化している能力をもう一度起こし、ものから何かを感じ取れるいい機会をもらった」

バヌアツの死霊像やナイジェリア妊婦像

自然に使い込まれたように見えるゲーム盤。「釜にも感じられる艷も出てほしい」と石の表面には漆を焼きつけた
 学生のころ、初めて民博に行き、製鉄のビデオを見た。自分の中で、仕事を始めようかと考えていた時期。アフリカ先住民が素朴なやり方で製鉄している様子に刺激を受け、後に、砂鉄を精錬してヒ(けら)(粗鋼)をつくる実験をしたこともある。
 今回の展示企画では、収蔵庫に特別に入り、触らせてもらえる。好きなものを選んで確認できる。「鉄の文化の原点、チグリス・ユーフラテスだけでなく、いろんな地域の民族資料を一堂に見る機会。だからこそ、うれしかった」
 選んだものは百点を超え、何が好きか、もう一度考えた。フォルムや使い慣れた面白さ。それは、釜にも共通する。使われ、慣れ親しんだ味わいを出すため、磨いて漆で着色する。ものづくりの共通性を見た。
 「そうして見ると迫力がある。技法だけでない、試行錯誤しているものの方が沿ってくる。作る目的に対して、純粋に自然に近いところで作っている」

石を素材にゲーム盤

大西さんにゲーム盤をひらめかせたタイの石取り遊びの船(国立民族学博物館蔵)
 そこで作ったのが、石のゲーム盤。かつて、錫(すず)で関守石を作ったことがあるが、石そのものを素材とするのは初めて。雨風が穴をあけるように、砂をあててくぼみを作った。石は古くは鋳型として使われた例もある。銀を流し込んで駒も作った。一見、素朴なものづくりには、漆や彫金など日ごろの釜づくりの技術も用いている。
 妊婦像は針金と麻ひもをしんに、粘土ともみ殻を混ぜて練ったものをのせ、蜜蝋(みつろう)と松脂(まつやに)のワックスで作り上げた。家には伝わっていない技術だったが三年前、同様の手法で蝋型を作り、俵釜を作ったことを思い起こす。
 「目に見えないものが見えるものを作りたい」と、鋳型の素材で「目」も作った。「信じる気持ちがあるから作れる。そういう気持ちに戻れるような気がした」。ものづくりの原点をかみしめる。
 現在、民博で選んだ民族資料から十一点を借り受け、大西清右衛門美術館で館蔵品とともに展示している。「釜も民族資料の一つ。用途の共通性や肌合いのおもしろさなど見る人が見つけ出し、固定観念なしに楽しんでもらえたら」
【2009年4月16日掲載】
 大西家 江戸前期、初代浄林が京都三条釜座の座人となったのがはじまり。初代の弟、二代浄清は古田織部や織田有楽の釜師を務め、家の基礎を築いた。六代浄元の代に千家出入りの釜師となり、千家に伝わる釜を作り始めた。一九九八年、大西清右衛門美術館を開設、歴代が工夫を凝らしてきた茶の湯釜の造形美を広く公開している。