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(1)パワースポット

出雲大神宮 亀岡市千歳町
ご神体の山に秋の空が広がる。注目を集めている盤石(いわくら)は本殿の後ろにある(亀岡市千歳町・出雲大神宮=撮影・吉田清貴)
 ある雑誌のライターさんから、最近、若い女性たちの間で評判になっている京都のパワースポットがあると聞いた。「亀岡の出雲大神宮だって」。彼女はそっと私に耳打ちした。
 スピリチュアルブームの火付け役である江原啓之氏の本(注1)によると「ぼくが参拝させていただいたときも、神様からのお声が頭に響いてきて、圧倒的な磁力でお山に引き寄せられました」という。いったい、のどかな地で何が起こっているのだろうか。
 田畑が続く細い道を行くと、あちこちに寄進の幟(はた)がはためく社にたどり着いた。平日で閑散としているが、土日には大型バスで参詣者が乗り付けてくる盛況ぶりだという。だが、丹波国一の宮であるここがパワースポットと化したのは、「実はここ数年のこと」とひょうひょうと話す岩田昌樹宮司(85)の言葉に驚く。宮司さんが来た三十年前は荒れて参詣者もない神社だったが、ここ二、三年の間に遠方からも参詣者が訪れるようになり、境内も急速に整備されたそうだ。
 ことのはじめは、岩田宮司が京都市内で講演した風水を占うDr.コパ氏を連れてきた約十年前にさかのぼる。それに加えて、江原氏や李家幽竹氏がしきりに女性雑誌などに紹介するようになった。今も口コミとネットが情報を広めている。

強い「気」 霊験あらたか

巨大な盤石を前に歩く田中貴子・甲南大教授
 この社でもっとも強い「気」が集まるといわれるのが、本殿裏にある巨石(磐座(いわくら))である。神職の片岡宏之さん(27)に案内されて近づくと、いちばん霊験あらたかという場所に手を当てて瞑目(めいもく)する若い男性の姿があった。京都市内から毎月通っている大学院生(26)だという。「人の少ないところがよかったのに…」ととまどい気味に語っていた。
 「磐座に神や霊がよく見える」と片岡さんが言うその巨石に私も触れてみたが、ひんやりとかび臭いだけで何も感じない。もともと、そういったものを信じていないせいもあるが、はやりのストーンヒーリングとの違いはわからなかった。信じる人にはわかる、ということだろうか。「私の背中に何か見えますか」と片岡さんにたずねてみたいが遠慮しておく。

すがすがしい空気 心リセット

境内奥にある「みかげの滝」。ここにも祈りをささげる人が絶えない
 ただ、空気や山のわき水はきれいですがすがしく、「パワー」にすがりたい現代人がリセットする場所としてはいいのかも知れない。今から二十年以上も前にここを訪れた評論家川村二郎氏が著書(注2)に、「のんびりと田舎じみて」「時間が非常にゆっくり進む、それどころかほとんど停ってしまっている」と記した姿は変わってしまったが、「気」を信じるか、それとも単に自然に親しむか、それはあなた次第である。

貴子のここも注目!・恋みくじ

田中貴子さん
 出雲大神宮は、「日本第一の縁結び」の霊験も宣伝しており、通常のおみくじの他に恋みくじがある。同行した企画担当のちゑちゃんがそれを引くと、「A型とO型の人とよい相性」と出た。日本人の大半を占める血液型というのがニクイ。さるヒルズ族と結婚した若手の女優がお忍びで参拝したといい、東京でも有名なのだ。ただし、彼女はすぐ離婚したけど。

たなか・たかこ氏
 1960年京都市生まれ。国文学者。京都精華大助教授などを経て、2005年から現職。専門は中世文学。著書に「『渓嵐拾葉集』の世界」「あやかし考」など多数。趣味はミステリーの読書、猫との交流。
メモ
 【出雲大神宮】 大国主命と三穂津姫命をまつる。兼好の「徒然草」第二百三十六段に出てくる、出雲のこま犬の話はここが舞台。境内には「真名井の水」がわき、遠方からも水をくみに来る人が絶えない。おみくじ、恋みくじはいずれも100円。JR嵯峨野線亀岡駅から京阪京都交通バスで出雲大神宮前下車、徒歩約5分。

(注1)「江原啓之 神紀行3 京都」
(注2)「日本廻国記 一宮巡歴」
【2008年10月16日掲載】