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(3)「源氏物語千年紀」のイベント

千年紀はどうだった?
源氏物語が書かれた平安時代以前から変わらずある境内。結婚式を挙げるケースが増えているという(京都市北区・上賀茂神社=撮影・吉田清貴)
 今年、京都は「源氏物語千年紀」で明け暮れた。こうして一年過ぎてみると、各地で行われたイベントのうち突出した人気を誇るものがあったかどうか。千年紀にともなう企画の損得勘定はどうなっているのか、興味を覚えて取材することにした。
 源氏物語からすぐにイメージされるのが、十二単などの王朝装束である。旅行者にも王朝装束着装体験が人気だとも聞く。そこで、十二単や束帯装束を着て結婚式ができるプランを始めた京都市北区の上賀茂神社を訪れた。
 上賀茂神社は源氏物語ゆかりの地として観光客が増加している。境内には紫式部が縁結びを祈願したという伝説のある片岡社があり、結婚式と連動させて宣伝に力を入れている。上賀茂神社の場合は、花嫁の髪形をほかではしていない「おすべらかし」にできるのがポイントだ。しかし、十二単の結婚式が好評なのは源氏物語千年紀のせいだけではないらしい。「女優の藤原紀香さんの結婚式の影響が大きいようです」という権禰宜(ごんねぎ)の乾光孝さん(37)の言葉にちょっと苦笑する私。来年以降も続けるというが、式料は衣装の保存費用も含まれるので通常の六倍だ。

「源氏夢回廊」

映画で使われた十二単などを展示する源氏夢回廊で説明を受ける田中貴子教授(左)=大津市石山寺3丁目・石山寺
 千年紀を人々が日本の文化遺産に目を向ける機会ととらえているのは、紫式部が源氏物語を執筆したと伝えられる大津市の石山寺で開催された「源氏夢回廊」の場合も同様である。映画の衣装や紫式部がモデルのロボットを展示したイベントだが、これらを見て源氏物語の何を知ることができるのか。源氏物語といえば京都ばかりに流れる観光客を誘致するための苦肉の策のようにも見える。
 だが、石山観光協会の中易篤さん(60)は、「源氏に興味を持ってもらえればよい」とあっさり断言する。源氏グッズも種々作られ、メーンキャラクター「おおつ光ルくん」はゆるキャラ路線そのものだ。外国語も聞こえる境内では、散る紅葉がわずかに源氏物語の雰囲気を醸し出していた。雰囲気だけでも成り立つのが、千年紀というお祭なのである。

雰囲気重視のイメージ戦略

源氏物語をテーマに松田さんが製作したネクタイ
 千年紀のグッズは多々あるが、西陣のネクタイ製造卸「タイヨウネクタイ」では王朝模様を織り込んだ源氏物語ネクタイを発売している。締めると女君の顔や牛車の大きな柄が目立つ、派手な商品である。今のファッションには合いにくいと思いつつ社長の松田太蔵さん(60)に購買層をたずねると、中高年や外国人が多いという。ファッションというよりおみやげや記念として買われている様子。千年紀委員会の許可を得た商品は断然売れ行きが違うのだ。
 千年紀イベント関係者が「日本文化を知るよい機会にすぎない」という、案外冷静な言葉が印象に残った。お話をうかがった方々は、マンガや現代語訳でしか源氏を読んだことがないという。雰囲気重視の画一的なイメージ戦略が今後どんな実を結ぶのかが気になる。
(甲南大教授)

貴子のここも注目!・理解の差

「おおつ光ルくん」

 千年紀以前から王朝装束体験を「コスプレ」として楽しんでいる人は多い。平安時代に詳しく、十二単を何度も着たという京都市の主婦(29)に千年紀の印象を聞いたところ、「平安時代には陰陽道や怪異などの世界もあるのに、雅で優美な側面ばかり強調する企画が目立つ」と批判的。源氏物語への理解度の差が感想を左右するようだ。


メモ
【おおつ光ルくん】源氏物語千年紀in古都大津のマスコットキャラクター。同実行委によると指定業者が出した約40案から選ばれた。横顔は歌を詠み、スポーツも得意な元気な子どもとか。オフィシャルグッズはぬいぐるみ=写真=、携帯ストラップ、ピンバッジ、クリアファイルで大津市内で販売。いずれも人気という。

【2008年12月18日掲載】

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