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(2)自然葬

桜の根元、故郷の海に眠る
しだれ桜の根元に目印を見つけ、ひしゃくで水を注ぐ平瀬さん。墓石はないが、満開の桜の眺めに故人をしのぶ人も多い(京都市右京区・西寿寺)

 空は穏やかに晴れ渡っていた。「お父さん、この辺りにいはるんよ」。京都市右京区の寺で、平瀬加津代さん(66)=右京区=が、大きなしだれ桜の根元に植えられたリュウノヒゲを示す。昨年12月20日、夫・友博さんの一周忌。実母や長女らと参り、夫が眠る桜の根元に水をまいて手を合わせた。

 友博さんは一人っ子で、家族は加津代さんと娘2人。「新しい墓を建てても、守れないと思った」と加津代さん。元気なころ、友博さんは「家の墓は窮屈そうで嫌」と話していたが、具体的な希望を何も残さなかった。

 夫が一番望んでいたことは何だろう。昨年の今ごろ、加津代さんは遺骨を自宅の仏壇の前に置いて悩んだ。冬じゅう考えても答えは出なかった。

 友人から樹木葬の墓地を聞いたのはそんなころ。「桜がちょうど満開で本当にきれいで。私もここに眠ってもいいかなと思った」

 晴れた日には市内を一望できる高台にあり、自宅から1時間足らずの距離も魅力的だった。娘たちも「お母さんがいいと思うのなら」と後押ししてくれ、亡くなって半年後の昨年5月に納骨した。

 別れから1年。静まりかえった墓地に注ぐ日差しが柔らかい。加津代さんはほほ笑んだ。「早いですね。お父さん、楽になって帰ってきたんやなぁって思います」

「死んだら海にまいてくれ」 夫の望みに異論出ず

夫婦ともにクリスチャン。遺影の前に「のど仏」が入る骨壺を置いて夫をしのぶ福富さん(京都市右京区)

 「今ごろ、主人はふるさとの近くの海を漂っていると思います」。右京区の福富昌子さん(76)は遺影を前に、散骨した夫をしのぶ。

 夫・敬治さんが食道がんのため80歳で亡くなったのは昨年5月。市障害者スポーツ協会の理事長を務めるなど障害児福祉の現場に生涯をささげた人だった。

 常々「死んだら海にまいてくれ」と、昌子さんや親戚を前に口にしていた。遺志を文書で残していたわけではないが、散骨することに誰からも異論は出なかった。

 敬治さんが名前をあげた場所は、北九州の海に臨む大きな橋。若い頃に慕っていた叔母の家の近くで、思い入れが深い地だった。

 9月上旬。福富さんは子どもらと京都を新幹線でたち、現地で夫方の親族と合流、総勢30人ほどで橋に向かった。みんな普段着で、和気あいあいとした様子だった。

 橋の上は予想外に風が強かった。たもとに下りて、チャーターしていた船に乗り、沖合に出た。福富さんは汽笛を合図に、あらかじめパウダー状にして小さなビニール袋に収めていた遺骨をまいた。

 「じっとしていない人でしたから、主人らしいのでは。望んだ通りにできて、何も思い残すことはないです」

 墓はないが、夫の「のど仏」だけを小さな骨壺(こつつぼ)に入れて、自宅の居間に置いている。「手元にあると落ち着きます。何もないのも寂しいですから」。自分もいつか、散骨されることを望んでいる。

散骨

海や山林に遺骨を散骨することについて、法律に明確な規定はない。遺骨はパウダー状にし、少量にする。海上や湖上で散骨するなら沖合まで出て実施し、山林では所有者に配慮するなど、一般に「節度」をわきまえて実施されているのが現状だ。

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【2011年2月11日掲載】