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(4)墓守

いつも身近に先祖を感じたい
丁寧に汚れを落としたばかりの墓に家族4人で手を合わせる酒崎さん一家。「墓は僕のよりどころ」(京都市伏見区)

 自分を見守ってくれる先祖を近くに感じて大切にしたい−。そんな思いから、京都市伏見区の酒崎伸明さん(37)は6年前、大阪市内の寺から自宅近くの民間霊園に祖父の墓を移す「改葬」に踏み切った。

 今月20日、妻子とともに眺望が自慢の墓を訪れた。月1度の恒例となった墓参りだ。酒崎さんは「歯磨きのようなもので、済ませないとすっきりしない。日常的に墓に手を合わせる習慣を自分の子に伝えることができてよかった」と満足そう。

 祖父がもともと葬られていたのは、いわゆる本家の墓。代々続いてきたため被葬者が多く、盆や彼岸には顔も名前も知らない「親類」と鉢合わせになることもあった。

 「本家が墓の管理に困り、おじの埋葬を断ったらしい」。ある時、そんな話を耳にした。折悪く、父親も体調を崩していた。「おやじや僕が死んだ時は本家の墓に入れてもらえるんやろうか」。不安が胸をよぎった。

 亡くなってから途方に暮れるぐらいなら、いっそ、今のうちに両親と一緒に新しい墓を建てて、いつでも会いに行ける場所におじいちゃんも移そう。妻も同じ考えだった。改葬にかかった費用は墓石を含めて500万円にのぼったが、マイホーム購入の蓄えを充てた。

 墓を移したところで、自分の子どもの代で継承者は途絶えるかもしれない。「家族関係は多様になり、将来何が起こるか分からないのは理解している」。それでも、と強調する。

 「『神頼み』ってあるじゃないですか。僕の神頼みの相手はずっとお墓のご先祖様でした」

進む高齢化 お参り代行業も

本業が忙しくても父の眠る墓には頻繁に訪れる吉川さん。「お墓には長い歴史があり、なくなることはないと思う」と語る(上京区)

 墓の引っ越しにあたる「改葬」は手続きが必要なうえ費用もかかる。そこまではできないが、遠方の墓が気になる−。墓を守る人のそんな焦りをくみ取って新しいビジネスを始めた人もいる。

 上京区の吉川三治さん(57)は3年ほど前に「墓参り代行業」に参入した。新しく作った名刺には<お墓参り代行いたします><あなたに代わってお墓の掃除をします>のうたい文句が踊る。

 本業は電気工事業。畑違いの業種だが、自身も祖父母の代から守る墓があり、荒れた墓を目の当たりにする度に「高齢化が進むと墓掃除ができなくなる人も増える。代わりにきれいにしてあげたら喜ばれるのでは」と思いついた。

 依頼先に到着すると、まず手を合わせる。続いて現状を撮影したあと雑草を丁寧に取り除き、墓石を水洗い。コケや汚れはヘラなどで丁寧に落とし、乾いた布で磨いて最後に再び合掌する。線香や花を供えることもある。依頼はまだ少ないが、完了の報告をすると感謝されることが多く、励みになるという。

 「墓とは、故人を通して自分自身を見つめ直す場所」と吉川さん。祖父や父が眠る墓は兄が継ぐことになり、自身の家族は娘ばかりだが、「僕もどこかに墓を作ると思う」と語る。散骨など墓以外の選択肢は増えているが、どこか落ち着かない。

 日常的に手を合わせる仏壇とは違い、節目節目に参ることの多い墓は、吉川さんにとって“ハレ”の場所。「だからこそやっぱりお墓に入りたいし、きれいにしておかなくてはと思うんです」

改葬

 墓を従来ある場所から新しい場所に移す一般的な手続きは、(1)新しい埋葬先から使用許可書などの証明書を受け取る(2)現在の墓の管理者に、被葬者を証明する書類を発行してもらう(3)現在の墓がある自治体の窓口(京都市は区保健センター)で改葬許可申請を行う(4)遺骨を移し、古い墓石を撤去する−の手順。ただし、市町村によって異なり、事前に申請用紙を取り寄せておいた方がよい場合もある。
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【2011年2月25日掲載】