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(8)戒名

「ランク」がお布施の額に影響
会費の納入総額や使途を一覧表にして報告した護持会総会(京都市伏見区・栄春寺)

 「70万円もらいたい」。京都市右京区の男性(42)は5年前、父親の葬儀の際、初対面の僧侶から言われた。率直にお布施をどうしたらいいか尋ねたためだ。葬儀と四十九日までの法要に「戒名料」を含めた額だという。

 葬儀は実家のある兵庫県で行った。菩提寺(ぼだいじ)は遠方にあり、やむなく葬儀会社に紹介してもらった僧侶だった。戒名を決める参考にと、祖父母の戒名を聞いてきた。その「ランク」が後で問題となる。

 百か日の法事で、母親はお布施として1万円を包んだ。その晩、僧侶から電話がかかってきた。「あの戒名なら5万、7万はくだりません。良かれと思ってつけたのに…」

 男性はその話を聞いて僧侶にあきれた。「お布施の『相場』が分からず、言われる通りに渡した。いい『お客さん』でした」

 ある葬儀会社によると、寺との付き合いがない施主のために僧侶を紹介するケースは半数にのぼり、必ず聞かれるのは布施の額。「遺族の希望に添う形でお寺を探すこともあります」と担当者は打ち明ける。「立派な戒名をつけた場合は100万円を超えることも珍しくありません」と。

 「戒名料」などの布施は、寺や住職の収入源となる。寺と信者のつながりが強固ならば、資金的に寺を支えるという信頼関係が成り立つ。だが、檀家(だんか)制度や信仰が形骸化すると、布施の意味や戒名の必要性に疑問を抱く人も出てくる。

 伏見区の栄春寺の米澤昭博住職(48)は約20年前から、葬儀で戒名を授ける際、遺族から「戒名料」をもらわない。若くして寺を継いだが、檀信徒に金額を聞かれたり、不安げな顔をされて、ぎこちない関係になるのが嫌だったからだ。

 とはいえ、寺を維持していくための収入は必要だ。そこで檀家を中心に「護持会」を組織し、会費で寺を運営することにした。

 3月22日には、お彼岸の法要に合わせて恒例の総会が開かれた。本堂に集った会員たちに、護持会長が1年間の会費総額や、営繕費や耐震工事費など使途をそれぞれ報告した。

 「普段からお寺の運営に協力してくださっているから、お戒名は差し上げます」という米澤住職は、「今は大きな変革期。宗教者として現代に合う宗教儀礼のあり方を模索しなければ」と話す。

信仰と別に自ら戒名命名も

自宅の祭壇に茶を供える坂口道さん。写真と壁に掛けた油絵が泰三郎さんの面影を伝える(宇治市)

 信仰とは別に、「死後の名前」としての「戒名」を自らつけた人もいる。

 3年前の冬、90歳で亡くなった宇治市の坂口泰三郎さんは生前、自分で考えた「戒名」を紙に書き、妻の道さん(86)に伝えていた。

 「釈岳村」。尊敬していたフランスの哲学者にちなんだ名前で、かつて本を自費出版した時のペンネーム「安理岳村」からとったという。葬儀は僧侶を呼ばず、子や孫、サラリーマン時代に始めた絵画サークルの仲間らに静かに見送ってもらいたい−。そんなスタイルも決めていた。

 泰三郎さんの遺志に沿い、無宗教で行われた通夜と葬儀。棺は花で飾られ、遺影を囲むように生前に描いた油絵が掲げられた。

 「故人の遺志を通せたからか、皆さっぱりした雰囲気で過ごせました」。道さんが振り返る。戒名を自分で考えたと聞かされた時は驚いたが、今では心からよかったと思える。「主人にふさわしい名前で送ることができましたから」

戒名

 本名(俗名)とは別に、戒律を守り仏弟子になった証しとして付けられる。葬儀の際、信心とは別に、形式的に僧侶から授かることが多い。院号や位号とセットになっており、寺への貢献度を表す面もある。浄土真宗は戒名はなく、「法名」を「帰敬式(ききょうしき)」(おかみそり)などで生前に授かる。日蓮宗では主に「法号」といい、信仰に入った証しとされる。
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【2011年4月1日掲載】