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(4)ガラス作家 石田知史

筥 光と遊ぶ 洗練された空気が生む清新
パート・ド・ヴェールの技法で繊細な光をとらえる「筥(はこ) 光と遊ぶ」(2009年)

  氷砂糖を思わせる半透明のガラスの箱の表面には、繊細な金色の線刻と緑・青の微小な粒が整然と並ぶ。石田知史(1972年〜)は、鋳込みガラス「パート・ド・ヴェール」による創作で、06年の日本伝統工芸展で日本工芸会総裁賞を受賞した期待の星。専門とする作家が数えるほどしかいない特殊な技法で、清新な表現を探求する。

 パート・ド・ヴェールの技法は古代エジプトから見られるが、工芸で注目されたのは19世紀のアール・ヌーヴォーの時代。吹きガラスとは違い、粉状のガラスを型に詰め、窯で焼く技法だ。独特の柔らかい質感が特徴だが、型は中身を取り出す際に壊さねばならないため、一つの型から1点ずつしか制作できない。しかも、型を彫る作業は失敗が許されない集中力と根気のいる作業。「非常に手間がかかります」と苦笑する。

 詩仙堂に近い瓜生山ろくの工房は、ウグイスの鳴き声が響く閑静さ。「柔らかいものづくりをしたい」と語る背景には、こうした環境で育ったことがある。パート・ド・ヴェールの技法は父亘(1938年〜)が80年代から探求。母征希(1943年〜)も作家で、ともに日本的な表現を切り開いてきた。が、知史は両親の制作をごく自然に「継いだ」のではない。

 高校卒業後、東京で3年間、ガラス技法を学んだが学校は個性重視のアート志向。実家に戻ったが、「このまま制作をするのか」と思案し、2年間かけ世界を一周。その過程で、各国の工芸や美術はその国の風土、生活に根ざしていることを実感した。「比べてみると日本のものは、きっちりしており洗練されていると気づかされた」。京都に生まれ育ち、伝統的なものに親しんだ。「こういう立ち位置にいること自体が貴重では」と今では思う。

 工房では、両親と机を並べるが、創意工夫は独自に重ねている。皿の外側だけ型を用いることで内側は滑らかな肌にしたり、棒状のガラスを組み合わせて額にするなど、まだ誰も試みたことのない形を広げる。まるで処女地を開拓するかのように「突っ走ってやろうか」と笑う。

 見る角度や光のわずかな違いで表情を変えるガラス。その繊細さを生かす表現には、京の伝統が反映されている。「昔から多くの人が積み上げた基礎の上に新たなものを作るのは、チャレンジングだ」。7月14日から20日まで京都高島屋で開く3人展への新作づくりに余念がない。

ガラス作家 石田知史

「京都の空気のような柔らかな作品を」と話す石田知史(京都市左京区)

【2010年5月15日掲載】