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(7)油画 伊藤彩

ゾンビも恋をする 毒も飲み込むユーモア
「レゾナンス」展に出品された油彩画「ゾンビも恋をする」(2010年)

 見た瞬間「何だこれは」と目が点になった。

 常識が揺さぶられる体験は、絵画を見る楽しみの一つだ。形が溶解した人物やモノが無秩序に広がる絵はインパクトがある。一方で「冗談のつもりだろうか」と当惑を引き起こす向きもあろうか。

 伊藤彩(1987年〜)は京都市芸大大学院修士課程に在籍中ながら、サントリー美術館「天保山」(大阪)で開かれた「レゾナンス」展や、VOCA展などに次々と出品の注目の若手。小山登美夫ギャラリー(京都市下京区西洞院通花屋町)内のTKGエディションズで10日まで、新作のインスタレーションを展開している。

 和歌山県有田市出身。みかん農園を営む家で5人きょうだいの末っ子に育つ。10歳年上の3番目の姉らが陶芸をしていた影響で、美術の道に進んだという。

 「ゾンビも恋をする」などといったタイトルは、絵を描いた後につけられるが、絵は何かの情景を具体的に表しているわけではく「基本的に無意味」という。ただ、作品づくりでは舞台装置のように情景を粘土や紙でつくり、写真に撮ったものをもとに作られ、綿密に構図が決められている。「想像したイメージだけでは説得力がなく、写真だけでも面白くない」。大学のゼミでヒントを与えられ、この方法を編み出した。一見、無秩序な画面に奇妙な説得力が生まれている。

 互いに関連のはっきりしないモノどうしが並列する絵画は今日、しばしば見られる。モノたちが織りなす一種のスペクタクルは、時間の同時性を表し、無秩序な現代における異物の共存、などと説明されうる。

 伊藤の絵もその流れに沿うものかもしれない。しかし、「ケツの穴」「ゾンビ」など「ガキが喜びそうなネタ」を平然と描くところは、この人の大きな持ち味だ。

 授業中、先生に対して悟られぬよう冗談を発し、クラスメートを笑わせたという中学生時代。そうして会得した、まじめと悪ふざけの間をすり抜ける間合い。からかいではなく、パフォーマンスだと見たい。

 開催中の個展では、「思春期の少年の妄想」をテーマにした。「思春期の少年はピュアな感じもあるし、大人ぶっているところとか、微妙なバランスが気になる存在」。絵の中での少年は胸にハート型の穴が空いていたり、好きな少女だけが鮮やかに見えたりと、滑稽で切ない。おおらかなユーモアの中に毒も飲み込む絵の世界が羽ばたくか。

油画 伊藤彩

「思春期の少年は気になるテーマ」と話す伊藤彩(京都市芸術大)

【2010年7月3日掲載】