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(14)美術作家 谷澤紗和子

おたのしみ会の準備 ゆるく、未完成のまどろみ
粘土の人形や切り紙が並ぶ「おたのしみ会の準備」会場(ヴォイスギャラリー)

 何ともゆるい空間だ。荷物こん包用のクラフト紙を切り抜いた紙細工がつるされた部屋には、油粘土でつくられた人形、ゆっくりしたテンポの音楽が流れている。まるで夢から目を覚ます前のような、まどろみの空気がただよう。

 「こうであってもいいし、そうでなくても構わないようなものを作りたかった」。谷澤紗和子(1982年〜)は、ヴォイスギャラリー(南区)で28日まで開かれている個展の新作について話す。「お楽しみ会」とは、特別なイベントではない、ただ楽しみを目的として開かれる集まり。それの準備ということだから、まだ形もはっきり定まらないわけだ。

 谷澤は京都市立芸術大の油画出身だが、油彩画ではなく、付け爪を大量に組み合わせたオブジェ、枕から取り出した羽毛でつくった小動物や服など、女性のファッションとの関連を思わせる素材による、生々しい皮膚感覚と人工物の乾いた感じを兼ね備えたオブジェが注目されてきた。ところが、今回の切り紙や油粘土は、泥臭い空気をただよわせる。サザエの殻口が人形の目の部分に空洞をつくったり、二枚貝がぱっくりと体の各所に開けていたり。あたかも民芸品か子供の遊びを思わせる。

 「これまでの制作で、素材の意味が強くなりすぎ、作っているものと自分の興味とのずれを感じてきた」。そこで今回、紙や粘土という誰でも扱える素材で、専門的な技術や技法をまったく必要としない作品に挑んだ。「電話をしながらペンを持って落書きをするような、黙々とやってしまう無駄なことが、自分にとって力があるなと思うから」。半ば無意識に何かを作っている時の状態を、そのまま見せられないかという狙いなのだ。

 谷澤も参加した4月の京都市立芸術大ギャラリー開館記念展「きょう・せい」展では、どこにでも見られる素材を用いた作品が空間を覆い、若い作家たちの感性を伝えていた。「美術だけでなく社会全体が専門的なものに分かれているけど、ものを作るというのは誰もがやっていること」。専門性によりかかることなく、自分の味を出せるかが、目下のテーマだ。

 一見かわいらしい人形をよく見ると、ぱっくり口を開いた貝の内側に貝柱の痕跡などが見え、かすかなざわめきを感じさせる。「整理されて理解しやすいものよりも、よくわからないものの方が強い」。来春には同ギャラリーで規模を大きくした個展が控え、展開が注目される。

美術作家 谷澤紗和子

「ついやってしまう無駄なことを表現したい」と話す谷澤紗和子

【2010年11月13日掲載】