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(5)画家 英ゆう 

紅い花環と大きな門 タイで見いだした自然への敬意
巨大な花輪がタイ王宮の門にすっぽり刺さった「紅い花環と大きな門」(2008年)

 宮殿の門のとんがった屋根に、「Q」の字をした花輪がすっぽりとかぶせられている大画面。何千何万もの花弁の一つ一つがびっしり描かれた花輪を中心に、大小の均衡が崩れた世界が不思議と一体化している。

 英(はなぶさ)ゆう(1973年〜)は昨年11月まで2年間、京都市芸術文化特別奨励制度の認定を受け、タイに滞在。その成果を発表する展覧会が京都芸術センター(京都市中京区)で13日まで開かれており、ハトの舞うバンコクの王宮前広場に見立てた空間を大広間で展開。イムラアートギャラリー(左京区)でも26日まで「森」と題し個展を開催中だ。

 「わかりやすいものを描きたい」と、創作について語る。高校時代から海外留学、京都市立芸大在学中にもイギリスに留学したが「どうもピンと来ず、20代後半には、描きたいものが見あたらず絶望の手前だった」。タイに最初に行ったのは10年前。「先輩に無理矢理連れられて」だったが、街角や古木の枝などに花輪が掛けられているのを見、深く印象に残ったという。

 「自然を称える気持ちを感じた。それまで学んでいた西洋絵画では、人間が一番偉いという世界観だったが、日本の価値感に通じるものを感じた」。以来、頻繁にタイを往復するようになったという。

 今回の滞在中は、シラバコーン大学で、京都でも昨年末に作品が紹介されたヤナウィット・クンチェートーン教授のもとで学んだ。植物から絞り出される汁や実の粒を用いたヤナウィット教授の版画「オーガニック・プリント」は、素材そのものが語る生命感が息づいている。「植物の色を手本に、アジアの色彩感を学べた」と収穫を語る。

 油彩で花を描くときは、無我に近い状態という。花を編んでいる人を追体験しているようでもある。「そういう風に描けるものを描きたい」。タイ人が儀礼に使う花輪「プアン=マ=ライ」の実物は直径20センチほどしかない。それを建物に比するまでに描き上げる行為は、祈りの心境なのかもしれない。

 京都芸術センターの展示作品は昨年、バンコクでも出品した。「タイの人たちにどう思われるかと案じたが『タイ文化を理解してくれた』と感想をもらった」と、手応えを語る。

 日本と通じ合う価値観もさまざまに見いだせたタイから戻り、掲げるのは「日本をどうすれば魅力的なものにできるのか」。伝統的なものへの価値観が宙づりになった現代の日本で、美を見いだしていこうと歩み出す。

画家 英ゆう

「花輪を描くときは無我に近い」と話す英ゆう(京都市中京区・京都芸術センター)

【2010年6月5日掲載】