京都新聞TOP > 文化・文芸・教育アーカイブ >京の新鋭
インデックス

(21)美術家 Hyon Gyon

笑う顔 心の中の陰、作品通じ昇華
【画済】京の新鋭作品 「笑う顔」(2011年 ミクストメディア 180×180cm)

 ギャラリー内は、緑や紫、赤など極彩色のまがまがしい装飾があふれる。絵画はビーズや和紙、布、エナメル質の物質的な画面。円形の平面作品「怒髪衝天」は、短いカラフルな線が幾重にも重なって叫ぶような人の形相だ。黄色い「スマイリーマーク」を模した立体造形「笑う顔」にはいくつも包丁が突き刺さり、その柄の部分にチェーンやひも、玩具がジャラジャラ垂れ下がる。まるで泣いているようだ。映像作品から微妙に音程の外れた「天城越え」のカラオケ。どうやら作家本人の歌らしい。濃密な呪術空間に、場違いな日常が迷い込んだ不思議なおかしみが漂う。

 京都芸術センター(京都市中京区)の企画展「On a Knife Edge」(10日まで、無料)で展示されているHyon Gyon(ヒョン・ギョン、1979〜)作品だ。

 「怒髪衝天」の表面は、光沢のあるサテンの布が熱で溶け、何重もの線のように固まっている。「ハンダゴテで彫るように溶かす。サテンはチマチョゴリの布に似ていて、ちょっとチープな質感が好き」とHyon Gyon。おびただしい線でできた顔は、絶えず流動する人体の生命感がある。「細胞が騒いで、皮膚を突き破って出てくるようなものを描きたかった」

 韓国の美大を卒業し、一度就職したが、6年前、ファッション雑誌で見て関心があった日本へ。日本語学校で学び、京都市立芸大へ入学、博士号も修得した。

 「自分は何者だろう」。作品の色使いは無意識に、チマチョゴリに使われるような原色が多くなる。自身の民族性、伝統、女性性を意識するようになったのは日本に来てから。その根底にあるものに気づいたのは、巫俗(ふぞく)の儀式だ。祖母が死んで四十九日、ムーダン(巫女)が死者を送る所を見た。「祖母の死を自分の中で認め、受け入れながら違うものに変換していく感じがした。それは生きている者の儀式でもあり、生きる実感につながる。自分の作品にはそれが欠けていた」。心の奥に現れる変化とプロセスに興味を持つようになった。「死とか心の中の陰の部分を放り出して、違うものに換えていく。そういう作品を作っていきたい」

 近作の画面には妖怪風の女、鬼面、うねるような髪の毛、水着の女性、キティの刺青をした外国人、コスプレおじさんを描き込む。映像作品では、大量の食べ物を手づかみで口へ入れる作家の姿。悲しみや怒り、痛みを伴いながらも、どこかユーモラスだ。「薬物依存や自殺、整形など現代社会の問題について、ネットを参考に引用し、装飾として軽く使うことで笑いに昇華したい」。負の世界を、作品制作という儀式を通して浄化するようだ。

美術家 Hyon Gyon

仲間5人で東向日にスタジオを借りる。「刺激があって楽しい」と語るHyon Gyon(京都市中京区)

【2011年7月9日掲載】