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(23)漆芸作家 染谷聡

はるのあさのみそしるのゆげの 記憶や日常を刻み込む
「はるのあさのみそしるのゆげの」(2011年)

 お椀(わん)の中から、生き物のような有機体が煙のように立ち上がり、絡まりながら横に伸びる。漆の光沢の中いっぱいにちりばめられた模様は、マツや波、おにぎり、「の」の字、くちびる、キラキラしたマーク、何かの形象や記号−。漆芸作家染谷聡(1983年〜)の新作は、現代美術の精鋭が集まる「ジパング展」(28日〜10月10日、京都高島屋)や個展(1日〜29日、日月祝休、イムラアートギャラリー京都)に出品される。「歓喜天のように二つが絡んだものを作りたかった。春画に興味があって、人間の関節をどうしたらこんな体形になるんだというのがある」。確かに染谷作品は、思わぬ所から足や手が伸び、妙な形が多い。

 漆に蒔絵(まきえ)や螺鈿(らでん)、沈金など伝統技法を駆使し、現代的な感覚を溶け込ませる。とりとめのない模様群は、入れ墨や日記みたいなものだ。「その時の日常や気になったこと、友人と話したことなどを描き入れる。図柄の大小や構図も関係ない。僕の何かを刻んでいく。一見カオスに並んでいても、全体として一個の模様になればいい」。記憶や日常、イメージが混じり合う。

 工芸的には漆が乾く際に表面が縮んでしわになるのは失敗だが、「あえてたっぷり漆を塗って、縮んだところを模様にした。これまで漆の技術と遊んできたけど、今度は素材と遊びたい」という。漆という素材は土着的で湿度があり、ヌメッとしている。「乾いてもみずみずしい。樹液は血。漆には宝石のきれいさより、血の美しさがある」

 東京生まれ。幼少期インドネシアで過ごし、京都市立芸術大へ。今春、大学院を満期退学した。

 生命体と「もの」との間にある造形。創作の根源はマンガやSFの影響という。以前は、2次元を無理矢理3次元にしたような動物の造形だったが、より抽象度が高まっている。お椀とくっついた獣、頭部が鳥の足になった獣、おけの中から立ち上がる「ゆ」の字。「いきもの」から「もの」へ変化しているという。

 現在、同ギャラリーで3人展(9月17日まで、日月休)を開催中。その会場に「む」という作品がある。装飾的な染谷のイメージと正反対な、黒くてどろっとした物体。毎日の作業で余った漆をかけている。「作業で出た垢(あか)。その蓄積で何ができるか。それは自分を知ることにつながるかもしれない」と話す。10月の個展は「うらがえりたいのために」というタイトル。「ものを作ることは、自分の中身をベローンと裏返して出す感覚。もっとひっくり返って自分を出したい」

漆芸作家 染谷聡

「江戸時代の職人さんに『面白いやんけ』って褒められたいんです。漆芸の精神の伝統を受け継ぎたい」という染谷聡(京都市左京区)

【2011年9月10日掲載】