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(25)美術家 八木良太

Portamento 時間や音の手触り探る
「Portamento」(Performance: Toshio Matsui 松井利夫/2006)

  回転するレコードの中心に白い粘土が置かれ、おもむろに画面に現れた手が土を成形する。指の力の強弱で、土の形は塊から凸になり、凹になり、器の様相を帯びる。形の変化に合わせて、レコードの音はぐにゃりとたわみ、ゆがむ。目に見えないと思っている音が、実は形なのではないか。一定に流れる時間そのものも、曲がったような感覚になる。この八木良太(1980年〜)の映像作品「Portamento」は6日まで開かれた「ヨコハマ・トリエンナーレ」に出品され、注目を集めた。

 音や文字、時間、記録に関心を寄せる。それは「見えているけど、本当はもっと複雑なもの。または、一貫して見えていないもの」と八木はいう。素材はレコードやカセットテープなどアナログメディア。視点を大胆に変え、あり得ない方法、あるいは、やってはいけないやり方で使用する。例えば、レコード盤の型をとった樹脂に水を流し込んで製氷した作品。雑音の中から聞こえてくるドビュッシー「月の光」は、氷の盤上の溝に刻まれた音の粒だ。別の作品では、レコード盤を半分に切り、それをS字状に連続させ、針の付いた模型車に走らせる。そうした作品はどこかユーモアと詩情が漂う。

 さらに時間をずらし、感覚を揺さぶる。一定に振れるメトロノームの背後で、波が早送りのように打ち寄せる映像作品は、振り子が2秒に1回、元の位置に戻る所に着目した。「映像は1秒に30枚の静止画が連続している。61枚の静止画を抜き取れば、背景の波だけ早く動く」わけだ。カセットテープのテープ部分を丸めた球体をランダムに回転させ、一点の磁気ヘッドが音を読み取る作品は、「2次元を3次元化し、多次元の入り口のようにした」。A↓Zへ一方向にしか再生されないテープが、回る球体の上ではC↓A、A↓Yと無作為に動く。「時制が崩れ、新しいルールが生まれる感覚が面白い」

 愛媛県今治市出身。予備校時代、「絵では他の学生に勝てない」と、一日中パソコンでポストカードを作り、画面上に抽象パターンの絵を描いた。京都造形芸術大では空間演出デザイン学科を卒業した。

 「表現はしたくない」という。「表現ってその時の感情でしょう。それが僕には恥ずかしい。むしろ誰がやっても同じ結果になる方がいい。アイデアとして広がり、共有できるのがいいんです」

 あるけど、見えない、聞こえないのは、「人間の感覚が追いついていないだけかも」。鑑賞者の知覚領域を広げ、次元をまたぎながら、時間や音の手触りを探り続ける。

美術家 八木良太

「日常の中で、一瞬、『あれっ』と思う不思議な現象を観察しています」と話す八木良太(京都市左京区・京都造形芸術大)

【2011年11月12日掲載】