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舞台扉の截金
引き立て合う金と銀 光が奏でるハーモニー
 照明を消し、障子を開け放して自然光を入れると、尾州檜(ひのき)の舞台扉に施された金銀の截金の表情が微妙に変化した。より優美に華やかに、崇高な雰囲気さえ漂う。
 截金は、極細の線状に切った金箔をはりながら文様をつくりあげる。仏を飾る「荘厳(しょうごん)」の一つとして、仏像や仏画を彩る。截金の重要無形文化財保持者江里佐代子さん(六一)は、仏師の家へ嫁いだのを機に截金の技術を受け継いだ。「仏荘厳に携わらせていただいている」ことを、心に留めながら、現代工芸の世界へ活動の幅を広げてきた。
 今回、晩餐室「藤の間」の舞台扉に使ったのは、金箔と銀色のプラチナ箔。金と銀とは互いの美の長所を引き立て合う。二つの色が交差するさまに「人と人との出会いもそうありたい」との願いを込めた。
 六枚の箔を熱で焼き合わせた「合わせ箔」を作り、竹刀を用いて一本ずつ切る。そうした下準備に約一年かかった。制作の場となったのは、南禅寺塔頭の光雲寺内に建てた仮設アトリエ。風の音や水のせせらぎ、鳥のさえずりを聞きながら、截金を施した。「清浄な空間で、あれほど集中できる環境はなかった。幸せをかみしめながら仕事をした」と振り返る。
 部屋の正面を飾る綴れ織りの中に描かれた藤と調和し、天蓋から下がる荘厳具の「瓔珞(ようらく)」をイメージした文様。「扉を開閉する時、動きとともに光が反射してゆれ、それが音色を奏でているように感じてもらえたらうれしい」と江里さんは話す。
【2007年5月21日掲載】

■絆深く結ばれますように 東山未生流華務長 今枝靖甫さん
 五月のなかほど、新緑がまばゆいまでに美しい季節となりました。
 京都迎賓館の晩餐(ばんさん)室「藤の間」の前に広々とした長い回廊があります。障子を開け放つと、水面が広がり、昼間の太陽の光でより一層汪汪(おうおう)しさが増します。晩餐室の壁面には、日本の四季の花をあしらった巨大な綴(つづ)れ織りが掛けられ、その美しさと技の見事さに息をのみます。
 見上げると、そこにあるのは、和紙格子の昇降式の照明を組み合わせた光天井。広い空間が温かな光に包まれています。この部屋は、正餐のほか、会食、パーティー、式典などに使用されると聞きました。綴れ織りに向かって左手に舞台が設けられています。截金(きりかね)の繊細な文様が施された扉が開くと、清々(すがすが)しく気品のある檜(ひのき)舞台が表れました。
 能楽、日本舞踊、狂言など、日本の伝統芸能がここで披露されることでしょう。舞台には白い「羅」の几帳(きちょう)が置かれ、向こうが透けて見える「穀」の幕をおろすことができます。御簾(みす)越しに琴や雅楽の演奏を楽しむ趣でしょうか。
 この空間で、文化や言葉の違いを超えて、絆(きずな)が深く結ばれ、一人一人の心の内に、良き思い出を残しますように、祈念しながら花材や花器を選びました。花器は丹波の古代大壺(つぼ)。「和合」の創造を思い描きながら、少し新芽の出た垂れ柳の素朴な線の美しさを添え、板屋楓(かえで)の鮮やかな緑、高貴な紫の色彩をそなえた鉄線で優雅さを表しました。
 一木一草に心はときめき、なんでもない雑草や石ころにも親しみを覚えます。花は語らずして人をなごませ癒やします。これからも、生かされ、自然と対話しながらいけばなの道を歩むことに、喜びと感謝の気持ちを抱きながら、日々を送ってゆきたいと思います。

 いまえだ・せいほ 1936年、京都市生まれ。88年華務長就任。京都いけばな協会流派代表参与。