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屋根
美しいラインを描く屋根(京都迎賓館)
 日本建築の美は屋根にある、といわれる。
 町家の瓦屋根のこう配の美しさ、どっしりとした寺院の屋根の荘厳さ。造形美だけではなく、何か精神的なものも、そこに見いだそうとするからかもしれない。
 京都迎賓館においても屋根はとりわけ重視された。屋根工事を検討する分科会を設け、延べ三十回以上もの会議を通して、素材、工法、設計などの方針を決めていった。工事管理を担ったのは淀川製鋼所。建材部工事グループリーダー千歳秀人さん(五六)は「一つ課題をクリアしても次々と異なるハードルが出てきた」と話す。
 屋根材は、瓦屋根よりも軽く銅板より耐久性が高い、ニッケルステンレス複合板。暗緑色の落ち着いた風合いだが、屋根への使用例は少なかった。硬く加工が難しい。棟の端につける鬼瓦は一から作った鋳物だ。
 現場での作業を最小限にするため、すべての部品を工場で作り、現場でピタリと設置するよう求められた。施工図面づくりに一年以上かかった。精密なプラモデルを組み立てるように工事は進んだ。
 人間の目は錯覚する。軒先を直線に見せるために、両端を三十ミリ上げる「軒反り」を施してある。棟から軒先にかけては、やわらかさを出すために「むくり」を付けた。ゆるやかなカーブを描くために、寸分の誤差も許されない。長さ十メートルほどの定規を作って精度を確認。さらに、ネジ山で高さを調整できる円盤状の垂木受け部品を考え出して、精巧に屋根を葺(ふ)いた。
 「現場加工で職人の技が生かされ、その良さを表現するのが本来の和風建築だが、製品化された屋根材でそれを実現しなくてはいけなかった」。難しかった工事を、千歳さんはこう振り返る。
【2007年4月2日掲載】

■柳緑花紅の春を喜ぶ色と量感 月輪未生流華務長 平林朋宗さん
 「柳緑花紅」。この季節、掛け軸などでよく目にする句です。字を見ただけで、春の風景が目に浮かぶことでしょう。柳の緑は、初々しく芽を伸ばし始めた若緑であり、紅は淡く優しいピンク色。日本人にとって、花は桜と思うところですが、この句はもともと中国からのもの。花は桃を表すといいます。
 京都迎賓館の中央に大池があり、技と美を尽くした現代和風の建物が回りを囲みます。花をいけたのは、玄関回廊の対岸になる舟着き。見事に配された大きな石は、瀬戸内海犬島産花崗(こう)岩の巨石を、金属矢で四分割しそれらを再び舟着きにと組み合わせられたものと聞きます。庭側に近い石の、少し小高く、丘状で、広い石面に変化をもたせてあるところに、大きな陶製花器をじかに設置。安定感があり自然美あふれる花敷となりました。背景には、端正ながら優美な姿の廊橋。それらを含めた野外の大作です。
 花材を前に、いつも思うことがあります。対象に自分の息吹を注ぎ込み、新たな命を願うという点では、ものづくりの人たちはみな同じでしょう。しかし、いけばなは実に直接的で、生の植物の一花一葉にまで心を配り、色彩や形を愛(め)でつつ、枝や茎を手で思いの形に整え直します。それは、生き物同士、命の共有を感じ合いながらの作業です。
 いけるにあたって、風を配慮し、曲げのある力強い流木を斜めに組んで舟に見立てました。明るさを増した日差しに映えるよう少し濃い色目の唐桃(からもも)、春風の中を泳ぐような雲竜柳をいけ合わせ、やや暖かみのある黄色いシンビジウム、板屋楓(いたやかえで)。量感と色彩の存在感を強調してみると、春の喜びを感じてか、それともいけ手の声に誘われたのか、水面(みなも)には錦鯉(にしきごい)も集まり、仲間入り。のどかさの中に一層の風情を添えてくれました。
 ひらばやし・ともそう 1948年京都市生まれ。99年月輪未生流華務長就任。日本いけばな芸術協会評議員。京都いけばな協会理事。