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(1)神戸の教訓 岩田健太郎教授 神戸大医学部付属病院

軽症者の入院は不要
発熱外来前のテントで、訪れた女性と話す防護服姿の神戸市職員(5月17日、神戸市中央区・神戸市立医療センター中央市民病院)
強毒かどうかは症状と不一致

 新型インフルエンザ(H1N1)の流行は一区切りついたとみられていたが、世界保健機関(WHO)は世界的流行を意味する「フェーズ6」に警戒レベルを引き上げた。国内でも新たな感染者は依然として見つかっており、第2波の流行を懸念する国や自治体は態勢見直しを進めている。われわれは、いかにして感染症と向き合っていくのか。医療、歴史、社会などの観点から新型インフルエンザが浮き彫りにした感染症全般の問題や課題について、専門家に問う。

◇自宅療養も隔離◇

 厚労省が、神戸市での国内初の感染確認を発表したのは5月16日だった。通常ならば約6時間で判明する詳細(PCR)検査に3日間も要した。
 神戸大医学部付属病院感染症内科の岩田健太郎教授は「戦略性がないまま、疑いがない検体が多く検査機関に送られた結果だ」と振り返る。
 結果が出た時点で1例目の高校生は自宅療養し、快方に向かっていたという。しかし、入院がなされた。岩田教授は「感染が広がる可能性はなかったのに、病院に呼びつけてまで入院させた。感染拡大の防止が狙いとされたが、かえってその危険性を高めた。『入院の必要はない』と強く言うべきだった」と語る。
 岩田教授によれば、隔離とは、感染経路の遮断が目的だ。自宅療養も一種の隔離であり、入院だけが隔離とは限らない。また、強毒か弱毒かはウイルスの性質であって、症状とは一致しないという。「重症ならば入院すべきだ。軽症であれば自宅療養で済む。臨床医が患者さんを診察した上で、個々に判断すべきだ」
 しかし、新型インフルエンザは別扱いだ。発熱があり、疑いがある人は発熱相談センターに電話し、必要に応じて発熱外来の受診が促された。岩田教授は「新型インフルエンザは、感染症の一つに過ぎない。一般医療から隔絶して、異なった医療体系をとる意味も根拠もない。新型だけに特化した発熱外来は世界的にみても奇異であり、必要はない」と断言する。

◇対応の課題露呈◇

 初めての感染確認からまもなくして、神戸市の発熱外来は新型が疑われる患者で殺到した。感染症の指定医療機関は満床寸前の状態になり、5月20日から、神戸市医師会の合意のもと、一般の開業医らも診療する特別措置を決定した。
 岩田教授は昨年から「軽症者の入院は不要」とする見解を示していた。発生時でも神戸大は軽症者を入院させない方針を決めた。「リスクは担保した。毎日、自宅療養を続ける患者さん全員に電話で容体を確認して、最後までフォローした」
 発熱相談センターでも課題は残る。担当職員は、すべてが医師ら臨床のプロではない。「患者を見ないで判断するのは難しい。自信がないから発熱外来へとなる。本来は臨床に慣れた医師も参加するべきだ」
 新型インフルエンザを通して、感染症の課題が露呈したという。例えば、同じ待合室で糖尿病の患者と季節性インフルエンザの患者が同席する▽先進国でほぼ根絶した麻疹や結核などの流行が起きている▽予防接種での対応に遅れが目立つ−などさまざまある。
 岩田教授は「多少のバージョンは変わるが、強毒であっても基本は同じだ。医療全体の質を高めないと、新型インフルエンザを含めて、有効な感染症対策はできない」と強調する。 

+α 【仙台方式】

「新型インフルエンザに特化せず、感染症の総合的な対策が急務だ」と語る岩田健太郎教授(神戸市中央区・神戸大医学部付属病院)
 新型インフルエンザが大流行した時に、地域の診療所が軽症患者の診療を担い、自宅療養で治療する。「発熱外来」の機能も果たす。重症患者は入院施設で治療する。仙台市が独自に立てていた。厚労省は19日、感染初期では症状の程度にかかわらず入院を原則とした従来の方針を見直し、軽症患者は、自宅療養を原則とする方針を正式決定した。
いわた・けんたろう 1971年島根県生まれ。島根医科大卒。2008年から現職。著書に「感染症外来の事件簿」「悪魔が来たりて感染症」など。

【2009年6月28日掲載】