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一極集中の出版に一石

ミシマ社(東京都)
マンションの一室に構える京都オフィス。本棚には発行した出版物が並ぶ(京都市中京区)
マンションの一室に構える京都オフィス。本棚には発行した出版物が並ぶ(京都市中京区)
 「一冊入魂」。文字通り、魂を込めた本作りを掲げる総合出版社だ。本社は東京に置くが、三島邦弘代表は京都を拠点に活動する。「売れる本ではなく、面白い生きた本を届けたい」。読者との「つながり」を大切に、東京に一極集中する出版業界の在り方にも一石を投ずる。

 大学卒業後、出版社に就職。新書の編集などで経験を積む。仕事は一貫して楽しかったが、社風になじめずストレスもあった。「それなら自分で会社をつくればいい」。2006年、東京でミシマ社を設立した。

 小回りがきく出版流通を目指し、導入したのが本屋との直接取引だ。通常、出版社と本屋の間には取次会社が入る。この流通システムは全国に効率良く本を送る半面、売れ残りの返品率は約4割と高い。そこで編集との両輪として本屋への営業を重視。適切な冊数だけ納め、返品率は1割前後で推移する。

 事業が軌道に乗り始めた11年3月11日、東日本大震災が起きた。東京でも不安が広がり、知人を頼って4日後に城陽市へ。4月に城陽オフィスを開設し、移り住んだ。実は震災前から東京偏在の出版業界に疑問を感じていたが、「日々に必死で考える余裕がなかった。だが、今やらないと、ずっと2拠点にはできない」と決心した。

 原点回帰で読者との関係を見つめ直そうと、城陽で始めたのが「ミシマ社の本屋さん」。自らも接客に立ち、自社の本を中心に対面販売する。編集者が読者を目の前にする機会が少ない中で「多様な人に支えられていることを実感できるかけがえのない体験」になっている。

 京都市中京区に昨春開設した京都オフィスでは、ウェブ雑誌を紙版月刊誌として再編集。有料サポーターの名前を手書きした世界に一冊の非売品として贈る。現在、京都オフィスと城陽オフィス(ミシマ社の本屋さん)を一体化させる物件を市内で探している。「読者一人一人の顔が見える新たな場所にし、老若男女に喜んでもらえる面白い本を生み続けたい」。新しい出版のモデルを京都から発信する。

三島邦弘代表

 京都大文学部卒。PHP研究所(京都市南区)、NTT出版(東京都)を経て独立。2006年、ミシマ社(東京都目黒区)を設立した。京都市上京区出身、北区在住。38歳。

【2014年03月17日掲載】